劇場公開日 1964年1月15日

「因習の中で揺れて乱れるヒロイン」乱れる mittyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0因習の中で揺れて乱れるヒロイン

2019年7月7日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

結婚後まもなく夫が亡くなり、その後18年間、家業の酒店のために身を粉にして尽くしてきた未亡人礼子と、義弟(夫の弟)の悲恋がベースになった物語。1964年の成瀬巳喜男監督の作品で、脚本は松山善三氏(主人公高峰秀子さんの旦那さん)。

成瀬巳喜男氏の映画は3本目の観賞になります。
『歌行燈』、『浮雲』、『乱れて』の順に観ました。『浮雲』ほど重苦しさはないものの、時代の因習にのみこまれた「悲恋」で、突き刺さるラストでした。

礼子が「次の駅で降りましょう」と幸司と一緒に温泉宿へと繰り出して、「女」と「未亡人の立場」の間で揺れ動き、結局は寄り添ったところで「堪忍して」と幸司を突き放してしまう。なんと残酷な…と思えども、「僕はずっと姉さんが好きだった」と一途に進む幸司も向こう見ずで見てられない感はあります。

『乱れる』というタイトルがすごくて、どんな映画なんだろうと思ったが、幸司の強いアプローチで礼子の心が「乱れる」ということなのか。幸司もまた、姉さんが相手にしてくれず、燃えたぎる気持ちをどこにどうぶつけていいかわからずに、乱れているようにも思えました。

18年間も、ある意味、操を守り続け、お家のために働き続けた礼子。幼少の頃より息子のように、弟のように接してきたといえども、幸司の深い思いやりや優しさや一途な思い、ストレートな告白を受けたりしたら、女を刺激されて「乱れて」しまうだろうなあ。けれど、禁欲的で静かに乱れているところが、下手なメロドラマになっていない。

mitty