劇場公開日 1963年12月7日

「残念な点もあるものの大満足の娯楽作品です!」十三人の刺客(1963) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5残念な点もあるものの大満足の娯楽作品です!

2019年10月18日
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鑑賞方法:DVD/BD

これは面白い!
極上の娯楽作品だ

七人の侍と椿三十郎と忠臣蔵をかき混ぜたような内容です

酷薄怜悧な老中筆頭役の丹波哲郎が素晴らしい
そして何より、強烈な秘密軍事指令を与えられた目付役の片岡千恵蔵もまた素晴らしい!
選りすぐった精鋭を前に「お主達の一命、この新佐が命じるままに使い捨てに致す」と言いきるシーンは痺れました
他の誰にも出来ない恐ろしく困難なプロジェクトの指名を受け、その達成のためには優秀な部下を幾人も非情であっても擂り潰さなければならないことを覚悟した言葉です
こう言いきってくれてこそ命を投げ出して働けると言うものです
現場の上級指揮官はかくあるべしという姿を体現しています
男が男に惚れなければ命を懸けて働けはしないのです

そしてその副官役の嵐寛寿郎も燻し銀の名演を見せます
副官の重要性や参謀のありかたの理想像を見せます

ストーリーも中盤はプロフェッショナル同士の知略の戦いとなり、クライマックスの決戦に至るまでのほうが面白い程
敵方の指揮官鬼頭半兵衛の造形も素晴らしく、内田良平が椿三十郎での仲代達也を彷彿とさせる熱演を見せます
襲撃計画を練っている正にその場に敵方の指揮官が単身乗り込んで来るのですから圧巻です

中盤の戸田の渡しでの襲撃を想定して、襲撃側を一枚上回る防備計画の見事さや、指揮ぶりの鮮やかさで、襲撃を未然に封殺していまう有能さを印象付けて、敵側の手強さの演出も良く出来ています

クライマックスの激闘シーンも迫力あり、中仙道美濃落合宿を防塞化してデスゾーンを形成して多勢に無勢の不利を解消する工夫もなかなかに本格的で見応えがあります

計略を弄して敵方の百数十人の護衛部隊を43人にして13人で迎え撃つのですが、それでも彼我の兵力比は三対一以上です
つまりランチェスターの法則にある攻守三倍の法則と言う軍事常識から見て尋常の手段では勝てないわけですから、そこを良く映像にして見せます

集団殺陣といっても単に大勢がてんでにチャンバラをするようなデタラメなものではありません
副官の倉永左平太がこういいます
「今の世に真剣で戦った侍なぞはおらんのだ、我にも無ければ相手にもない、人が命と命をぶっつけあい戦うときどんなことが起こるか誰にも想像がつかんのだ」
舞台は1845年の江戸時代末期です
戦国の世から250年近く続いた平和の世の中での戦闘なのです

果たしてクライマックスの激闘がついには、血みどろの肉弾戦になったとき、あれほど冷静でプロフェッショナルな殺し屋的な浪人が、わめき逃げ惑う姿を呈するまでたたかうその姿を見せるのです

音楽は怪獣映画の音楽の巨匠伊福部明その人
今にも怪獣が出そうなおどろおどろしい劇伴で盛り上がります

残念な点は刺客それぞれのキャラクターが立っていないこと
わざわざ「これで十三人になったな」という七人の侍の台詞をもじったのに、肝心の三船敏郎に相当する若い郷士も上手く消化仕切れてません
もったいない限りです

それでもラスボスや敵方指揮官との一騎討ちとかお約束のシーンも用意されており納得、大満足の時代劇です

しかしこれでヒットしなかったというのですから
残念です
本格時代劇の終焉を飾る大輪の花のような作品です
もうテレビの時代劇で十分という時代に突入したということたったのでしょうか

1963年の作品ですからカラーで撮れた筈ですがリアルさをだしたかったのか、黒澤作品と同じ土俵で撮りたかったのか白黒作品です

ただ作劇も戦闘シーンも如何に黒澤明監督が富士山の様に仰ぎ見る偉大な存在であったのかを再確認するにとどまっているのも確かです

2010年にリメイクされたそうですが、現代に舞台を移して自衛隊の秘密軍事作戦というような内容に翻案したリメイクを観てみたいと思いました

あき240