劇場公開日 1993年12月25日

「この島は東京より20年は未来だったのです それが本作の舞台にこの島が選ばれた理由だと思います」男はつらいよ 寅次郎の縁談 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0この島は東京より20年は未来だったのです それが本作の舞台にこの島が選ばれた理由だと思います

2021年9月1日
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鑑賞方法:VOD

1993年12月公開

バブル崩壊はいよいよ厳しくなって来ました
就職氷河期の始まりです
たった2年ほど前はあれほどの売り手市場だったのに様変わりです
1998年頃の本当の就職氷河期からみたら、こんなぐらい当たり前のことです
もっともっと大変だったと思います
まあ、満男の面接ぶりをみたら落ち続けるのは当然かも知れません

「車でお金貸します」なんて広告が、夜道を帰るさくらと博の背後の壁にあります
バブル崩壊はサラ金の隆盛をもたらしたということです

松坂慶子 41歳
第27作「男はつらいよ浪花の恋の寅次郎」以来の2度目12年ぶりのマドンナ出演です
まだまだ美しい!
病み上がりという設定もありますが、この頃はまだ細かったのでした

彼女の役もまた、バブル崩壊の犠牲者で、借金で夜逃げしてきた神戸の料亭の女将というもの

例によって寅さんといい感じになります
二人で金毘羅さん、高松の栗林公園とデートします
「もう!いじわる!」と彼女が寅さんの手をつねります
その時、公園のアナウンスが小さく聞こえます
「鯉が三千匹おります」
「ちょうど鯉がささやかな恋をしております」
ちょいと面白い演出でした

老人ばかりの瀬戸内海の小島
巡回してくる医者と看護婦
ホームヘルパーというワードもでます
この頃から人口減少と超高齢化社会は始まっていたのです
何でも東京が最先端ということは有りません
日本の未来はこの小島が先取りしていたのでした
田舎こそ、過疎地こそ、日本の最先端なのです
この島は東京より20年は未来だったのです
それが本作の舞台にこの島が選ばれた理由だと思います

エピローグはお約束のお正月のシーン
今年も泉ちゃんは満男に会いに来ませんでした
もう2年連続です
満男は泉ちゃんのことをすっかり忘れ果ててしまっています
だって亜矢ちゃんから貰った手編みのセーターを未だに正月から着ているぐらいです
泉ちゃんがもし会いに来たら何と言い訳する気なのでしょうか?
彼の中では泉ちゃんは完全に過去のものになってしまっているのです

就活の失敗続きにへこたれたとき、満男の頭には泉ちゃんのことはこれっぽっちもなかったのです
彼女のいる名古屋に行こうなんて発想すらなかったのです
琴島で亜矢ちゃんといい感じになったときにも、彼の脳裏には泉ちゃんはなかったのです

遠距離恋愛のパターンそのものです
きちんと別れをしたわけでもないのに、疎遠になってしまい
すっかり忘れてしまう
その内新しい異性との出会いがあるのです

彼は亜矢ちゃんが積極的になって、周囲も結婚するという目で見始めると、逃げ出してしまいます
それには泉ちゃんに悪いからとかいう考えはこれっぽっちもないのです
自分に自信がないからだけなのです
泉ちゃんのときと同じなのです

ラストシーンは正月の商売をしている寅さんです
隣でポンシュウが恐竜のビニール人形を売っています
のぼりには、S. スピルバーグ ジュラシックパークと大書きしてあります
この年の公開で大ヒットしました

最後の最後
赤い風船と黄色い風船が海と岬を背景に、空に漂い上って行きます
寅さんと満男のことを象徴しているのでしょう

あき240