劇場公開日 1954年6月20日

「小品なれど無駄なく母娘の感情の交錯を描き出した秀作」噂の女(1954) 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0小品なれど無駄なく母娘の感情の交錯を描き出した秀作

2020年8月27日
PCから投稿

ここは京都の花街。田中絹代が切り盛りする店には身を売った多くの女性たちが住み込みで暮し、日々多くの客たちが出入りする。そんな稼ぎで東京にまで出してもらった娘は今、家業が原因で交際が破談になり、自殺未遂を起こして実家へ帰ってきた。そんな彼女へ向けられる周囲の目。やがて娘の恨みつらみは母へと向けられ・・・。小さな作品ながら、立体的な感情と視線が交錯して高密度のドラマを織り成していく様にじわじわと圧倒される。真っ向から対立する田中絹代と久我美子だが、しかし彼女たちもまた芯の部分で繋がっていて、二人がいかに心を重ねていくのかが一つのポイントになる。その一方で、忘れがたい印象を残すのは、身を売って働く花魁たちの姿だ。感動の母娘ドラマに終始せず、二人を見つめる女性たちの視点をそっと添えるこのバランス感覚。人間関係がまるで建築物のように組み上げられ、一切の無駄がない。巨匠の技を突きつけられる一作である。

コメントする
牛津厚信