足摺岬
劇場公開日:1954年4月18日
解説
「夜明け前」に次ぐ吉村公三郎監督の近代映画協会作品。田宮虎彦の“絵本”“菊坂”“足摺岬”の三短篇から製作の新藤兼人(女の一生)が脚本を書いている。撮影、音楽ともに「ひろしま」の宮島義勇、伊福部昭の担当。出演者は「七人の侍」の木村功、津島恵子、「燃える上海」の神田隆、「日の果て」の信欣三、殿山泰司、「女の園」の金子信雄、「男の血祭」の日高澄子のほか、民芸の芦田伸介、俳優座の赤木蘭子など新劇人が出演している。
1954年製作/107分/日本
原題または英題:Cape Ashizuri
配給:北星
劇場公開日:1954年4月18日
ストーリー
昭和九年、冬。アカの嫌疑で投獄された苦学生浅井は上京した母のお蔭で釈放された。浅井の下宿する本郷菊坂近くの富士見軒には、学友緒方、毎日書きものをしている松木、女給さよ子をつれこんでマンドリンと嬌声に日を送る学生香椎、福井少年とその姉の八重などが居た。八重姉弟は兄が廟行鎮で捕虜になった事から、故郷に居たたまれず、母を四国の南端足摺岬近くの叔母にあずけて上京し、弟は新関配達に八重は近所の食堂で働いていた。ガリ版書きに広告取りに次々と失敗した浅井には、何時しか八重が生きる為の唯一の支えになっていた。ある日界隈に強盗が現われ、八重の弟が警察に引かれていった。無実の罪を問われた痛手は大きく少年は死をもって抗議し、傷心の八重は「一度是非いらして下さい」と云う言葉を浅井に残すと、足摺岬へ帰っていった。加うるに母の急死を知らされた浅井は、その夜二階で嬌声を上げる香椎を殴り、喀血した。すべてのものに突き放された浅井は、何もかも売り払うと汽車にゆられてようよう足摺岬へたどり着いた。しかし、死を決意して雨の足摺岬に立った彼も、どうしても死ねなかった。八重の姿が忘れられなかったのだ。八重の叔母の旅館でやさしく介抱してくれる八重に、彼は告白した。が、八重は既に隣村の有力者に嫁入りすることになっていた。切ない思いは浅井も八重も同じだが、もはやどうする事も出来なかった。しかし、八重と別れて足摺岬を旅立つ浅井の眼には、どんなことをしても生きようとする人間の決意が光っていた。