劇場公開日 2014年5月10日

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「フォーマットに違和感あり」ひなぎく 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5フォーマットに違和感あり

2023年10月18日
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大林宣彦『時をかける少女』を初めて観たとき、これは優れた映像作品であっても優れた映画ではない、と思った。本作に関しても全く同様の所感を抱いた。映像の切り刻み方が主に悪い意味で映画史の文脈を外れている。どっちかといえばアニメっぽいというのだろうか。カットの割り方やオブジェクトの配置なんかは『ぱにぽにだっしゅ』以降のシャフト作品を強く想起させられた。演劇チックなボイスオーバーや過剰なメタ演出なんかもかなりアニメっぽい。ゆえに映画としての必然性を感じない。

完全に映画を観るモチベーションだったこともあり、当時のチェコ情勢に関する政治的コノテーションを類推するより先にまず睡魔に襲われてしまった。オッサンを騙す一連のくだりなどはフランスのヌーヴェル・ヴァーグっぽくてそこそこ面白かったが、それ以降はあんまり惹きつけられるショットがなかった。唯一、畑から野菜を盗み出した主人公たちの脇を自転車に乗った無数の労働者たちが通り過ぎていくショットだけは割と好きだった。つげ義春『ヨシボーの犯罪』にこんなシーンがあった気がする。

個人的には最後の最後にデカデカと掲げられる献辞が低評価への決定打だった。「サラダを踏みつけられた程度で怒り出す人々に捧げる」というのはあまりにも社会挑発として浅はかなのではないか。そもそも劇中で散々食べ物を粗末にしている時点で挑発として完成しているのだから、わざわざそれを言葉で説明する必要はない。政治に舵を切りすぎたせいで寓話としての強度はかえって下がってしまっている。

予告編でも強調されていたフェミニズムの文脈で本作を読み解くにしても、作品自体のとっつきにくさに比して描写に込められた寓意はけっこう単純なのではないかと思う。ハサミによる切断が男根主義への批判であることや、男が常に遠近法によって物理的に矮小化されていることなどは一目でそれとわかる。この作風ならもっと人を食ったような描き方もできたはずだろうからやや不満が残る。

ヴェラ・ヒティロヴァが実際に何をどのように考えていた作家なのかということは本作だけでは判断しかねる。他の作品も観てみたいんですが、何とかなりませんかね、イメージフォーラム様…

因果