劇場公開日 2007年9月1日

「絶望ではなく、未来へ向けた身支度だ。」ブラック・スネーク・モーン jack0001さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5絶望ではなく、未来へ向けた身支度だ。

2008年10月3日

泣ける

幸せ

萌える

ブルースを題材にし、いやらしくて毒々しいデザインのポスターに惹き付けられた。
ブラインド・レモン・ジェファスン:Blind Lemon Jefferson の曲名をタイトルにするくらいだ!
どこかで音楽的な売りや演奏がリンクされているものかと期待もする。
まず、劇中のイントロダクションでモノクロ画面いっぱいにサン・ハウス:Son Houseという名のブルースマンが登場。
ブルース好きな者にとってはバイブルそのもののような存在感のこの男、やがて静かにつぶやいた。

「愛は時に人を悲しませるんだ
これはケチな歌の話じゃない
ブルースは男女のもつれから生まれる」

アメリカ南部は別名「アメリカの恥部」とも言われている。
ヨーロッパ諸国からキリスト教徒が入植、開拓の術として黒人奴隷売買、そして今でも差別や偏見が一部残っている。
信仰と貧困と差別だ。
当然そんな環境下、マインドが腐るのも無理はない。
登場人物達各々が信じがたく些細な悩みや問題を抱えている。

『虐待の末にセックス依存症になった女』
『弟に女房を寝取られた初老の男』
『プレッシャーに弱い依願兵』

彼等の日常生活に少しずつ亀裂が入り、崩壊寸前なところでこの物語はスタートする。

ここまでの内容でこの映画のストーリーを推測してしまうと、絶望的で暗いものかと思われるだろう。
ところがむしろその逆である。
ちょっとしたヒューマンタッチ。
安心して鑑賞できる仕上がりだ。
南京錠と太い鎖で美女を監禁するという一見忌わしい行為に走る(これにはちょっとした理由がある)主人公だが、暴力的シーンは皆無に等しくいわばヒーリング効果抜群な処方である。
病めるアメリカの一部をコミカルにオブラートにでも包んだ表現ということか?
周囲に迷惑をかけずにやっていける人、体裁の整えられる人はまだいい。
でも世の中、それで済む人ばかりじゃないのだ!

人は見かけによらない!
だから、ちょっとは人とは違ったやり方だってまかり通るはずだ!

むしろ女性や若者に観て欲しい。
名優サミュエル・L・ジャクソン:Samuel L Jacksonの風貌と演技は、ミシシッピの農場で働くブルースマンの土臭さと堅固な姿勢を見事に表現している。
神と悪魔との取り引き仲介役 = 今や聖書を信じない男、でもまだ聖書を持ってる(この微妙さがブルースっぽい)
信仰心と本当の自身の内面とを次第に曝け出すかのように、一人のあばずれ女(クリスティーナ・リッチ:Christina Ricciが演じている、徐々に艶のある女性へと変貌していく様子が分かる)の介抱を通じて再生されていく。
なるほど・・・優しさとはこんな些細なことだったのだな!と微笑ましく観ることができる。

本当は切実で辛辣な唄、ブルース:Blues
床板踏むならすほど怒りに滾る唄、ブルース:Blues
やがて、ギブソンES-335とPEAVEYのアンプリファイアが稲妻の如く鳴り響き、人々は未来へ旅立つ為の身支度を始める。

人って誰しも、ほんの些細な悩みや問題を抱えている。
それを対処しながら(あるいは息を殺しながら)どうにかうまく歩み寄っていくんだろう。
優しさと信頼を忘れてはいけない。
人はいつだって再生できる。

やっぱりディナーの前には、手を合わせ神様に向かってお祈りをすべきじゃないかな?
良い処方箋とは、意外にも、近くにいるものに感謝するということなのかもしれない。

jack0001