劇場公開日 2006年11月3日

「【”馬鹿な兄貴ですから、けれど血が繋がっていますから・・。”重犯罪者を兄に持った男の哀しみと再生して行く姿を描いた作品。山田孝之の抑制した演技と沢尻エリカの一途な想いを持った女性の姿が素晴しき作品。】」手紙 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【”馬鹿な兄貴ですから、けれど血が繋がっていますから・・。”重犯罪者を兄に持った男の哀しみと再生して行く姿を描いた作品。山田孝之の抑制した演技と沢尻エリカの一途な想いを持った女性の姿が素晴しき作品。】

2022年12月8日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

■未鑑賞の方は、内容に触れていますので鑑賞後に読んで頂ければ幸甚です。

ー 恥ずかしながら、今作品の存在すら知らなかった。(原作を読んでいた事も関係しているかもしれない。)
  が、観賞すると、山田孝之(直貴)の自身のせいではないのに、職を追われる哀しみ姿を抑制した演技で魅せる姿と、彼を長い間支えている沢尻エリカさん(由美子)の善性溢れる姿に涙が溢れた。
  そして、自身を貧しい中、大学に通わせようと衝動的に殺人を犯してしまった兄(玉山鉄二)との手紙での交流が始まる・・。-

■勝手な意見であるが、今作が2022年度に公開されたとしたら、私は文句なく”5”を付け、多分劇場で流す涙は、客電が上がってから涙を拭いて、”俺、泣いてなんかいないよーん”というツマラナイ世間体を気にした態度を取っていたと思った作品である。

◆感想<というか、沁みたシーン、満載である。>

・これは、他作品でもテーマにされているが、重犯罪(今作の場合、無期懲役。理由はあるにしろ、赦されざる犯罪である。兄は終身刑。)者の家族への差別である。
今作は、この重いテーマをキチンと正面から描いている。
ー 真面目に働いていても、身内に重犯罪者がいると、分かった時点で職を追われる、もしくは理由なき左遷をされる。
  ケーズデンキの会長(杉浦直樹)が、左遷を言い渡された直貴に、(由美子からの手紙を受け取っている・・。)会いに来て言葉を掛けるシーンが印象的であり、その言葉が素晴らしい。ー

・自身が受刑者であった男(田中要次)が、直貴に来た手紙の住所を見て、酔っていたからか言ってしまった事。だが、その後、自身の部屋に直貴を呼んで、キチンと謝罪し、自らの且つての家族写真を見せるシーン。

・漫才コンビとして世に出た直貴が、ネットに流れた自身の兄の行為を見て、相方を想ってコンビを解散するシーン。
ー 私が大嫌いなのは、SNS社会で、自身の名を挙げずに人の不幸を嗤っている輩である。会社でもそういう輩はいるが、”他人の不幸は蜜”と考える奴は下劣極まりなく、私が気付いた場合には激烈な怒りを”敢えて皆の前で”本人に言い渡す。相手が私より年上であろうとも・・。-

・直貴が恋人(吹石一恵)に兄の事が言えなくて、怪我をさせてしまい破局してしまうシーン。
ー 哀しき場面である。だが、裕福な恋人の父親(風間杜夫)の対応も、仕方ないよな・・。-

■だが、山田孝之演じる直貴を、陰ながら支えていた沢尻エリカさん演じる由美子が行っていた事。
 それは、終身刑を言い渡された刑務所で過ごす兄に、彼に代わって手紙を出し続けていた事である。
 由美子は、それくらい直貴の事が好きであったのだし、直貴の兄の事も気にかけていた事が分かるのである。ナカナカ出来る事ではないよ。
 今作では、由美子という関西弁を話す女性の自身の生い立ちがきっかけで行った崇高な行為の理由がキチンと描かれているのである。

・そして、直貴は由美子の行為を一度は激高するも、容認し、所帯を持ち、娘を持つ。
ー ここでも、直貴の兄の存在の噂が周囲に流れて行くが、由美子の言い放った言葉が素晴しい。
 ”逃げへん。全体に逃げへん!”・・もうね、涙が溢れます・・。-

<そして、直貴は且つてのコンビと千葉の刑務所に慰問コンサートに訪れ、多くの受刑囚の前で、持ちネタを披露する。
 多くの受刑者が大笑いする中、カメラはある男に最後にショットを当てる。その男は、周囲が大笑いする中、一人手を合わせながら、大粒の涙を流している・・。
 今作は、”重加害者の家族は一生、その傷を抱えながら生きなければならないのか・・”という普遍の重いテーマを根底に置きつつ、人間の善性と再生する姿を描いた素晴らしき作品である。>

NOBU