劇場公開日 2006年7月22日

「「複数性」に耐えうるか」蟻の兵隊 h.h.atsuさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「複数性」に耐えうるか

2020年8月14日
iPhoneアプリから投稿

正直、ところどころ観ていて不愉快になる映画だ。

上官の指示で戦争が終結したのも知らされず、大陸に残された約2600人の日本兵たち。信じてきた国に対して裏切られた気持ちを考えると、同情できる部分も多々ある。

しかし、彼らは大陸で数多くの殺戮行為をおこなってきたのは紛れもない事実。
自身の残虐行為を棚に上げ、他人事のような発言が気になる場面がいくつかある。
冷静な判断ができない状況であることは十分理解できるが、なぜここまで上官の指示を聞き続けなくてはならなかったのか。
(なぜ逃げなかったのかと)中国の生き残りの親族に詰め寄るシーンがあったが、自分たち残留兵も何故逃げるという選択肢がなかったのか。

戦時総動員体制下、軍人も民間人も人間本来の「考える」機能を失っていく。それが全体主義の恐ろしさ。

日本には被害側の立場で描かれた作品は多いが、本作のように加害者側をクローズアップしたものは少ない。そういう意味で、後世に残すべき作品である。

多くのバッシングを覚悟して、カメラの前に立ったであろう、奥村氏の勇気を称えたい。

atsushi