劇場公開日 2007年9月15日

スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ : インタビュー

2007年9月14日更新

日本が誇る鬼才・三池崇史監督がイタリア製西部劇“マカロニ・ウエスタン”にインスピレーションを受けて製作した和製西部劇「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」。本年度のベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品されたほか、伊藤英明、佐藤浩市、桃井かおりら豪華キャストも話題の本作について、三池監督に語ってもらった。

三池崇史監督インタビュー
「『ジャンゴ』というのは、時代に逆らわない、わかりやすいタイトル」

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――なぜ「ジャンゴ」というタイトルをつけたのでしょう?

「最初、別の企画をもらったときに、“こういう企画だったらウエスタンにした方が絶対面白いですよ”っていう話になったんです。その後に、(映画が)作れそうな段階でプロットを作ったんですが、タイトルがないといけないんで、あくまでも心意気で、とりあえず仮題として『ジャンゴ』って付けてみたんです。ウエスタンのタイトルって実は難しいんですよね。『荒野の~』『夕陽の~』『皆殺しの~』あたりはすでに出尽くしているし、権利関係でも難しいんですよね。それに、新しい言葉を付けるとそれはウエスタンのタイトルにならない。『煌めく~』とかじゃ駄目なんです(笑)。そこで、マークとして、いっそ『ジャンゴ』にしようかとなったわけです。

仮タイトルだった「ジャンゴ」がそのまま定着
仮タイトルだった「ジャンゴ」がそのまま定着

ストーリーは『ジャンゴ』の誕生篇みたいな感じで、ジャンヌ・ダルクという女ガンマンから教えを受けたから“ジャンゴ”と名乗るとか、ラフなものを色々作りました。名前を付けてしまった以上は、ジャンゴっていう名前を関連づけようっていう性があったんです(笑)。でも途中で、これは今の時代が作らせた映画ではなくて、40年くらい前に出来ていたマカロニ・ウエスタンを僕らがたまたま見ていて、そこから巡り巡って、現代へと繋がっている流れの中の1本なんじゃないかと思ったんです。もちろん、その流れの中には日本の時代劇もある。そういった意味で、『続・荒野の用心棒』の主人公からとったこの『ジャンゴ』という名前は、時代に逆らわない、わかりやすいタイトルだなって感じますね。普通は仮題だと変わりそうですが、これは映画会社の人もそのまま逆らわずにこのタイトルになったんだと思います。ここら辺はマカロニ・ウエスタンの力なんでしょうね。そして、こういうタイトルだからこそ、北島三郎さんも歌い上げることが出来るわけです(笑)」

――その北島三郎さんに「ジャンゴ」の主題歌を依頼したのは監督本人なのですか?

三池崇史監督
三池崇史監督

「そうです。これは日本製のスキヤキ・ウエスタンですから、北島三郎だろうということなんです。演歌というジャンルよりも、北島三郎という昭和のアイコンが歌ってくれるといいよねっていう話ですよね。前にVシネマに一度出てもらったことがあったので、自分で頼みにいったんですが、最初は“ちょっと考えさせてくれ”って言われたんです(笑)。そりゃ、そうですよね。タイトルがカタカナの歌は初めてで、もう若くないから、他人の手助けを出来る余裕もない。その上、一曲一曲作るのにも納得出来る曲を作るから時間もかかるしで、迷うのは当然なんです。でも引き受けてくれたら、半年がかりで精魂込めて作ってくれました。完成した歌を最初に聴かせてくれたときに、北島さんが“どうだ?”って聞いてくれたんですが、その態度にベテランの偉そうなところがまったく無くて、とても新鮮だったんです。北島さんは北島さんで“こいつらに通用するんだろうか?”っていう風に見ていたと思うんですが、聴かせてもらった後で“いいですねえ。涙出そうですよ”って伝えると、そこで初めて普段の北島三郎に戻っていたんですよね。

北島さんもある種『ジャンゴ』っていうタイトルに乗ってくれたようなところがあって、“『ジャンゴ』って、あの『ジャンゴ』か?”って聞いてましたから、通じるんですよね。あの『ジャンゴ』を日本でやるっていうこと、その本気度に対して、マカロニ・ウエスタンを見たことのある世代の人たちは、自分の頭の中で何かドラマを勝手に作ってくれるんです。これは、今回出演した佐藤浩市氏もそうで、出る出ないを決める段になって、電話がかかってきたんです。“これは『隠し芸大会』みたいな、おちゃらけたヤツなんじゃないの?”って。もちろん役者としては怖い企画だっていうのはよく分かるし、聞いてくるのは当然なんですが、こっちもおちゃらけのつもりはないということを伝えると、“『ジャンゴ』っていうからには、(セルジオ・)レオーネじゃなくて、(セルジオ・)コルブッチなんだよね?”って言ってきたんです。実はかなりのマカロニオタクなんですよ、彼は(笑)。で、それ以降の打ち合わせは一切不要、彼が勝手にコルブッチの世界を作ってきてくれました。分かり合う者っていうのは、共通のキーワードを持てば、あとは“自分がどう思っているのか”っていう別個の世界になるわけで、そのそれぞれの感性をぶつけ合うんじゃなくて、足していくことが大事なんです。こういうそれぞれ別個の感性を尊重していくと、撮影の栗田さんとか、美術の佐々木さんとかが持っている個性が最大限に生かされ、しかも、彼らが他のスタッフと触れ合うことで更なる相乗効果が生まれる。そういった意味で、今回は奇跡的な映画だなって思えるんですよね」

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インタビュー2 ~三池監督に聞く「ジャンゴ」製作秘話(2)
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