劇場公開日 1980年12月23日

「原作無視だけどアメリカンホラーの金字塔的傑作」シャイニング 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5原作無視だけどアメリカンホラーの金字塔的傑作

2014年10月19日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD、CS/BS/ケーブル

怖い

勝手にスティーヴン・キング特集その17!
今回は言わずと知れたホラー映画の
金字塔的傑作『シャイニング』を紹介。

監督はこれまた言わずと知れた天才S・キューブリック。
まあ僕が本作を初めて観て衝撃を受けたのは小学生の頃で、
当時は彼の名前も知らなかったのだが。

あらすじ。
舞台はコロラドの山深くにあるホテル・オーバールック。
高校で文学を教える傍ら戯曲を執筆しているジャックは、
そのホテルがシーズンオフになる冬の約3ヶ月間、設備保守
の為の管理人として妻子と共にホテルに住み込む事となる。

静かな環境で執筆に打ち込めると意気込むジャックだが、
ホテルのオーナーはジャックにある事を告げる。
昨年の管理人は冬の間に気が狂い、家族を皆殺しに
した挙げ句、自身も猟銃自殺を遂げたというのだ。

自分は大丈夫とタカを括るジャック。
しかし、ジャックの幼い1人息子ダニーは、
ホテルに潜む数々の忌まわしい存在に気付いていた。
果たしてジャックは恐怖と狂気に少しずつ囚われていき――

...

この映画について思い出そうとすると、
一気に多くの場面がフラッシュバックされてくる。

三輪車、双子の少女、バーテンダー・ロイド、237号室、
笑う老婆、レッドラム、“仕事ばかりで遊ばない”、
消火斧、ウェンディの絶叫、犬男、「盛会じゃね」、
血の洪水、生け垣迷路、凍死体、集合写真――

ひとつひとつの画が脳髄に焼き付けられているかのようだ。
赤と白の映える強烈な色彩、シンメトリー(対称)の多用、
ステディカム(手ぶれ補正カメラ)の画期的導入、
人物から常に一定の距離を置き続けるカメラ、
それらの技法で作り出された映像は、恐ろしく体温が低い。
まるで顕微鏡越しに見ているかのように寒々として冷徹だ。
映画の舞台が雪山であることも相俟って、
観ているこっちまで凍えそうなほどの低体温映像。

そして忘れられないのが、名優J・ニコルソンの怪演!
「Here's Johnny(おこんばんわ)!」の名台詞&名翻訳は勿論、
『仕事ばかりで遊ばない』のシーンや、雪の中を駆け回る
妻子を見つめる眼など、本気でヤバい人にしか見えない(爆)。

息子ダニーを演じたダニー・ロイドも凄い。
当時6歳だった彼は愛らしいことこの上ないが、
その演技は神懸かっている。深い思考を感じさせる
瞳も印象的だし、“トニー”登場時の演技は怖い怖い。
あと主人公の妻ウェンディを演じたシェリー・デュバル。
……この映画で最も怖いのは彼女の顔という説もある。

...

ここで原作との差異について触れておく。
以前、ここ映画.comにて、キング本人が映画版
『シャイニング』を批判したという記事が掲載
されていた。その内容をザックリまとめると……

――キューブリックの『シャイニング』には
原作で目指していた人間の暖かみが感じられず、
その視線はまるで蟻を観察するかのように冷たい。
妻ウェンディの描き方も極めて女性蔑視的である――

同感である。
同感であるのだが、『映画版は映画版で
スゲー面白い』というのが僕の感想(笑)。
確かにウェンディの役回りはあまりにステレオタイプだし、
原作の重要人物があまりにアッサリした死を迎えるのも残念。
原作の怒涛のクライマックスと、温かな結末も僕は大好きだ。
だが 、徹頭徹尾冷徹な視線で描かれた映画版も、
恐怖映画として素晴らしい出来だと思う。

...

唯一僕が欠点と感じたのはテンポがややまったり
して感じられる点だが、これは昨今のスピーディな
映画に慣れた向きの意見かしら。

恐るべき忍耐強さでジリジリと上がり続け、
クライマックスで遂に爆発するそのテンション。
強烈な演技、鮮烈な映像、耳にこびりつく音楽、
全てが極めて高いレベルで統制されている。
総じて、完璧に極めて近いホラー映画だと思う。

〈了〉 ※2014.10初投稿
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余談:
ラストで写し出される写真の解釈について
書きたかったが、ネタバレ必至の内容なので自粛。
いちおうキング原作の布教活動(笑)が目的なので、
ネタバレ無しで書いている……つもり。

まあ『ROOM237』というドキュメンタリー映画では
「『シャイニング』は虐殺の歴史を振り返る映画だ」とか
「監督がアポロの月面着陸映像を捏造した事の告白だ!」
などのブッ飛び解釈を披露する方々もいたので、
それに比べりゃ僕の解釈なんてニコルソンの頭髪
並みにペラペラである。(←ニコルソンに謝れ)
上映後30年経ってもまだこれだけ人の好奇心を
掻き立てるとは、キューブリック恐るべし。

浮遊きびなご
CBさんのコメント
2019年12月13日

いやあ、勉強になります。やっぱり全然原作と違うんですね。
この映画を観た私は、キングさんを「怖い話を書く人」としか思っていなかったけれど、キングさん本人は、その面だけがクローズアップされてしまうのが、悔しいのでしょうね。俺も、原作読んでみよっと。

CB
近大さんのコメント
2019年3月10日

日記にコメントありがとうございます♪

いつぞやWOWOWで放送して撮り溜めしておいた分を一気見しました。
勿論、きびなごさんが書いておられたキング特集レビューも参考/拝見させて頂きました。

『シャイニング』は色々と解釈あるようで。
そこら辺『2001年宇宙の旅』同様、さすがはキューブリック!

どれも久し振りの鑑賞だったんですが、今回見た中では、『黙秘』がお気に入りですね。
何せキング原作映画MY BESTは『ミザリー』ですから。

『IT』が大ヒットして、キング作品が再び多く映画化され、ファンには嬉しいでしょうね。
自分もキング作品は好きなので♪
『ペット・セメタリー』リメイク、『IT』続編、『シャイニング』続編…。
『シャイニング』続編『ドクター・スリープ』はそんな感じなんですか。
果たして恐怖の名篇になるか、出来映えに期待ですね。

昨日陽気だったせいか、一気に花粉にやられてしまいました(>_<)

近大
MAKOさんのコメント
2018年11月22日

自分もウェンディの顔が一番の恐怖ポイントだと思います(笑)

MAKO
GokiPinoyさんのコメント
2014年11月12日

何度も失礼します。

こんなの見つけました。

urx.nu/e43N

これはさすがに想像の斜め上を行ってますよね?(笑)

GokiPinoy
GokiPinoyさんのコメント
2014年10月23日

お久しぶりです。

ついに「シャイニング」のレビューですね!

私はリアルタイムに新宿ピカデリーで見て、
冒頭の映像から圧倒され、真っ赤なトイレに圧倒され、
見終わった後も「レッドラム」を口ずさんでました(笑)

その後も長尺版(LD)を繰り返し見てました。
逆に公開版はその後ほとんど見てないんですよね。

さて「シャイニング」絡みの最近の話題ですが、
IKEAのハロウィーンCMです!
www.youtube.com/watch?v=cqsonfSQk2I

GokiPinoy