アメリカ,家族のいる風景のレビュー・感想・評価
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【”家族の血の繋がり”若き頃はモテた男だったら、不惑になって青い骨壺を抱く美女に付きまとわれる事はあるかな・・。今作は冴えない中年男の、若き日の行状を反省する”人生の一休み&反省ムービー”である。】
ー 今作の原題は、"Don't Come Knocking"である。
映画を見て、上手い邦題だと思ったなあ。ー
■西部劇のスターとして人気を集めたものの、今や仕事に飽き飽きしているハワード(サム・シェパード)。
ある日衝動的に乗っていた馬と共に”西部の怪人”の撮影現場を抜け出した彼は、故郷で30年振り!に母親と再会する。
母親はハワードを温かく迎え、20数年前に若い女性からハワードの子供を身ごもったと連絡があったことを告げる。
◆感想
・男は何かあった時には、愛された母親の元に帰るんだなあ、と思ったよ。
- 30年振りの再会にも関わらず、ちょっと前まで家にいたようにハワードに接する母親の姿。クスクス笑ったのは、母親が自分の映画スターとしての記事をスクラップしていたノートをハワードが苦い表情で見るシーンである。
逮捕、乱交、暴行の記事の数々・・。それでもキチンと息子の記事をスクラップしている母。有難いよね・・。-
・そして、ハワードはコレマタ久方振りに且つて抱いたウェイター、ドリーン(ジェシカ・ラング:良いなあ・・。)と再会し、バーで演奏する息子アールを紹介される。
- ハワードが、ドリーンに復縁を迫るシーンでの、ジェシカ・ラングの演技が抜群である。”今更、何を言ってんの!”という調子で、軽ーく一蹴される姿。情けないなあ・・。身から出た錆だね。-
・ハワードの行き先を調べる映画会社の慇懃な男サター(ティム・ロス)の姿も絶妙に可笑しい。
- 今更ながらだが、ティム・ロスって良い役者だよね。-
・そして、ハワードを付け回す謎の美しき女性スカイ(サラ・ポーリー)。青い骨壺を胸に抱きながら、ハワードが実の父親かどうかをパソコンで確認するシーン。
- こんな綺麗な娘が知らない間に育っていたら嬉しいけれど、矢張り男としてはだらしないぞ、ハワード!-
<荒れるアール(そりゃ、そーだ!)が部屋から放り投げたソファーで寝るハワード。朝になっていつの間にやら傍にいるスカイ。彼女は父と会った事で、漸く青い骨壺から母親の遺灰を蒼空に放つ。
ヴィム・ヴェンダース監督のロードムービーと言えば、誰でも知っている「パリ、デキサス」であるが、今作は冴えない中年男が、若き日の行状を現状から逃げ出す過程で反省し、新たな生活をスタートさせる”人生の一休み&反省ムービー”なのである。
佳き作品である。けれど、未来ある若者は真似しないよーにね!>
カワード・ハワード・・・あら、韻を踏んじゃったわ。
『ブロークン・フラワーズ』でも、まだ見ぬ子供を探す旅に出るストーリーだったけど、同じくカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品した今作も旅に出て子供を見つけることがテーマとなっていた。どちらも秀作であると思いますが、カンヌのパルムドールを獲得したのが『ある子供』だったというのも皮肉なことだ。
撮影現場を抜け出した映画俳優のハワード・スペンス(サム・シェパード)をスタッフが懸命に探すという場面からスタートしますが、西部劇のロケ現場で映画監督役をやっていたのはジョージ・ケネディ。なんだか久しぶりに見たので嬉しくなってきました。主人公はおちぶれた初老の俳優だというのにモテモテぶりは健在。ホントに子供を見つける気があるのかな~などと疑問にも思ったのですが、かつての恋人ドリーン(ジェシカ・ラング)とは結婚のことも考えたことがあるのか、案外あっさり見つけてしまいます。そのままストーリーが進むとつまらない映画になってしまったのでしょうけど、ここで謎の女性サラ・ポーリーの出現。ずっと骨壷を抱えている姿が愛らしく映ります。
まるで刑事のようなティム・ロスの存在も面白かったし、息子が部屋から道路へ放り出した家具の周りのシーンが最高でした。キンキラキンのアメ車が通り過ぎたり、犬とたわむれたり、ハワードの周りを不思議な空間が取り巻いていたかのようでした。ヴェンダースらしいロードムービースタイルも健在でしたが、このシーンにはかないません。オマケに息子の彼女のダンスシーンも微笑ましかったです。
圧巻なのはドリーンや息子、娘との会話。計算されつくしたような粋な台詞がとてもよかった。こうして、孤独な老後を過ごすだけだったところへ予想もしなかった家族が増え、ダメ男だったハワードの表情にも険が取れて優しさに満ち溢れたように見えました。それにしても、モンタナのビュートという町は寂れる一方の田舎町。『カーズ』を観たばかりだったので、かなりダブってしまいます。
それぞれが一つの家族
皆んなバラバラに相手の存在すら知らなかったり音沙汰が無かったりで生活をしている。
が、1つの家族。
30代でイイ大人であんな状況になっても取り乱す程の幼稚さや怒りも無い。
ただS・シェパードが渋かった。
『バリ・テキサス』を観ていると感慨もひとしお
西部劇を象徴するモニュメントバレーを背景に始まるのは、20年前にカンヌでグランプリの栄光に輝いた『パリ、テキサス』と同じで、主演は『パリ・テキサス』では脚本を担当したサム・シェパードが再度脚本を書き主演もしており、更に当時彼のパートナーであったジェシカ・ラングの共演となるとファンなら感涙物です。
『パリ・テキサス』が母親探しであるのに対して、この作品では息子探しと家族の再生を描いている。
それはサム・シェパードが劇作家としても活躍している為に、アメリカにおける離婚率の高さの深刻さに警告を発している様にも見え3人のそれぞれ母・元恋人・娘と世代の異なる女性から愛を受けるダメ男の話である。
単品としても楽しめますがこの作品をより深く楽しむには、やはり『パリ・テキサス』を観る事をお勧めします。
それにしてもサム・シェパードとジェシカ・ラングが同じフレームに収まり、加えてジョージ・ケネディにエバー・マリー・セィントが共演なんて思わず涙がちょちょ切れそうです。
作品中に出てくる‘壺’に‘娘’と名乗る女の子の存在も含めて実に感慨深く、『パリ・テキサス』とは密接に関わっていると言えます。
しかしながら最後の最後にそれらを忘れさせてしまう快演を見せるティム・ロスには恐れ入りました。
(2006年2月28日シネスイッチ銀座1)
ありがとう、ヴィム・ベンダース
ヴィム・ヴェンダースの世界、好きだぁ。ジム・ジャームッシュへのものと近い愛を感じます。
『パリ・テキサス』は本当に忘れがたい作品でしたけど、そこから20年、ヴェンダースがアメリカに見続けているものが変わらないことを感じさせてくれる作品でした。
ふと自分が映画を撮るということを夢想してみるとします。そして身近な日本の風景を思い浮かべるとします。しかし、どこで撮っても、この作品で感じる悲しさとは違うものになってしまうような気がします。そんな勝手な夢想によって、ヴェンダースがアメリカの風景へのこだわりを見せることに納得したりしてました。それぐらい、画に説得力を感じましたです。
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