劇場公開日 2024年4月12日

「黒澤明&宮崎駿リスペクトの『クラユカバ』スピンオフ。冴えわたる成田良悟のプロット力!」クラメルカガリ じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5黒澤明&宮崎駿リスペクトの『クラユカバ』スピンオフ。冴えわたる成田良悟のプロット力!

2024年5月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ひとりプロのライター(=成田良悟)が挟まるだけで、これだけ見違えるくらいに面白くなるのか、とある意味、感心した。

『クラユカバ』に引き続いて鑑賞。
あらゆる意味合いで丸きり物足りなかった『クラユカバ』と比して、格段に面白く仕上がっているし、ストーリーテリングが巧みになっているし、それぞれのキャラクターが立っている。
こんなに長編第一作と第二作で差があっていいものか、というくらい「エンタメ」として短期間で長足の進歩を遂げている。
で、理由を考えてみるとやはり、原作が監督本人ではなく、「作家・成田良悟による同作のスピンオフ小説を原案に手がけた」という部分がキモになってくるのだろう。
(その割に、本人のWikiには「シナリオ原案」となっているが、小説版はどういう形態で世に出ているのだろう? もしかして入場者特典とか? なんにせよパンフが売り切れていたので細かいことは全部当て推量である。)

成田良悟といえば、『バッカーノ!』『デュラララ!!』で知られる練達のラノベ作家。
当時、小説も読んだし、アニメも面白かった。
わちゃわちゃしたホモソーシャルな群像劇に、うまくどんでん返しを仕込んで来る人だったと記憶する。
やはり、物語づくりのプロが土台をちゃんと作ると、デコレーションケーキの出来もまるで変わってくる。
「似たような世界観で描いているようでも、シナリオ(プロット)のプロが携わるのと携わらないのでは、ここまで差がついてしまうんだ」という好例として、僕にとって『クラユカバ』と『クラメルカガリ』の二本は非常に興味深い事例となった。

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勝因の一つとしては、60分の中篇にふさわしい、簡潔でわかりやすいプロットが挙げられるだろう。
本作の基本構造は、黒澤明の『用心棒』から頂いている。
すなわち、宿場町で縄張り争いをしている古参のヤクザと新興のヤクザがいて、そこに裏で暗躍している別勢力がいて、さらに八州巡り(官憲)が絡んで来る。
この古式ゆかしい王道のプロットに、『クラユカバ』よりもはっきりと「宮崎駿愛」を打ち出すような形で、少年と少女の地下坑道での冒険(少女のほうが出来がいい)、歩きまわる破壊兵器(博士にとっては仲間であり子供でもある)など、わかりやすい『天空の城ラピュタ』からの影響が加味されている。そもそも「炭鉱の町」という設定自体が、われわれは今回『ラピュタ』に敬意を払って本作を作っていますよ、という種明かしのようなものだ。

要するに、たかだか60分の物語では、いろいろと新しいことや込み入ったことを仕掛けている時間などないのだ。
ただでさえ塚原重義ワールドは、設定過多で情報量が多い。
世界観に観客を馴染ませるだけでも、結構な手順と労力がかかる。
そこに、難解なプロットや説明の必要なキャラクターまで投入すると、映画が飽和して消化不良を起こしてしまう……ちょうど『クラユカバ』のように。

そこに、なるべく「食べやすく素材を処理してくれている」のが、成田良悟の手腕だ。
いかにもありがちな少年少女を主人公にして、地下で犯罪行為に加担している組織(『カリオストロの城』の贋金づくりのようなものだ)を登場させ、すべてを差配して事態を収拾できる「伊勢屋」のようなキャラを中心に置き、ジョーカーとしてポンコツと化したマッド・サイエンティストを配して、とにかく「なるべくわかりやすい構図を成立させている」。
これがそこそこうまくいっているから、すっと最初から話に入っていきやすいし、『クラユカバ』で多用されたような説明キャラによる解説もたいして要らないし、ずっとヒロイン・カガリの視点で物語が進行するから、多視点の群像劇に付き合うストレスも少ない。
やはり、長年エンターテインメント小説のメイン・ストリームにいた作家は、人の作った設定であっても、話の勘どころをつかむのがうまい。つくづく今回はそう思わされた。

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以下、よしなしごとを。

●世界観としては明らかに『クラユカバ』と『クラメルカガリ』は通底しているのだが、「帝都」から離れて田舎の炭鉱町を舞台にしたことで、大正浪漫的な『サクラ大戦』臭が薄れて、もともと漂わせていた「ジブリ」臭がひときわ高まったと言えるのかも。

●「箱庭」の自動生成されたようなごちゃごちゃとした外観は、美術として本当に素晴らしい。このへんもとても宮崎駿っぽいよねえ。

●終盤に登場する「虫ロボ」の発想自体には、やっぱり宮崎駿演出の『ルパン三世 PART2』 第155話「さらば愛しきルパンよ」が元ネタとしてあるんだろうね。善意の博士とか、技術の軍事利用とか、犯罪組織による強奪とか。
まあ、虫型ロボットというのは、軍事利用としては実際にいろいろ試作されているみたいだけど。そういやゾイドのあとに、カブトボーグとかも結構流行ったっけ。

●地下迷宮をうろうろして、トロッコやらウォータースライダーやらが出て来るあたり、おじさん世代にはどうしても『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』や『グーニーズ』を彷彿させるところがある。

●主人公の仕事を「地図屋」(いわゆるダンジョンにおけるマッピング職人)と設定することで、この物語の本当の主人公が実はカガリではなくて、生き物のように変化し続けるという「箱庭」と呼ばれる炭鉱町そのものなのだ、ということを暗に示すというのは、うまいやり口だと思う。

●塚原監督は『クラユカバ』でもそうだったが、劇場公開用のオリジナル作品の割には、プロの声優を使うことにためらいがないんだな。とてもいいことだ。
主題歌にオーイシマサヨシってのも、いかにもアニソンっ!!って感じがして大変好感が持てる。
出演陣はみなさんお上手なんで、取り立ててなんにもいうことはないんですが……やべえ、俺ずっと伊勢屋って、キャラに対する先入観で鳥海浩輔だとばっかり思い込んでいたぜ(笑)。

●ちなみに非声優の出演者として異彩を放っているのが、朽縄博士役の寺田農だけど……これだって間違いなく『ラピュタ』リスペクトの配役だよね!?
寺田農氏は、これが最後の作品となったようです。心からの哀悼の意を捧げます。
朽縄(くちなわ)ってのは「蛇」のことだけど、蛙の●●を博士が作ってることと関係あるのかな?

●最後に。やはり60分の二本立てが各2000円ってのは、さすがにあまりにあんまりだと思う……。いやまあ、お布施だと思って払いましたけどね。

●なるべく頭でっかちにならない形での、塚原監督の次回作にぜひ期待したい。

じゃい