「結婚=幸せという価値観の押し付けがしんどい」あまろっく あおさんの映画レビュー(感想・評価)
結婚=幸せという価値観の押し付けがしんどい
主題歌であるユニコーンの「アルカセ」を映画館で聴きたくて見に行きました。
おでん屋店主役の駿河太郎さんは映画本編では主人公・優子の本音と愚痴をひたすら聞かされるだけで終わってしまいますが、「アルカセ」のMVでは駿河さんがフィーチャーされています。
中条あやみさん演じる早希が、父親が不倫相手と家出したという過去を持ち、恵まれてるとは言い難い家庭環境で育ったのに、結婚して良い家庭を作ることに憧れ、固執するあまり65才のおじさんを逆プロポーズして断られたら押し倒してモノにするという、男女逆だったら犯罪案件の凶行の末に結婚……とちょっと狂気的なキャラでした。
家庭環境に恵まれなかったからむしろ結婚に憧れたってことなんでしょうけど、結婚=幸せという価値観を優子にまで押し付けるのが見ててしんどかったです。
価値観は人それぞれで、何を幸せと感じるかも人それぞれなので、早希が結婚することが幸せと思っているのは別にいい。けど押し付けがましいのは良くない。
特に変化のない日々を送る優子に「そんなの幸せじゃない。ごまかしてるだけ」と決めつけたり、頼んでもないのに「幸せになってほしいから」と勝手にお見合いさせようとしたり、結婚=幸せという固定観念に縛られすぎていて、そういうの、今の時代に合ってないよ……と思ってしまいました。
家族団欒にこだわってるわりに余計な一言というか無神経な発言が多いし、「裁縫したって結婚相手は見つからんよ」とか(優子は結婚相手を見つけるために裁縫してたわけじゃない)、なんか性格悪いなこの人……とちょっと引きました。
優子は不本意な毎日を送ってたのかもしれないけど別に結婚を目標としてたわけじゃない(はず)なのに、仕事しろ!とせっつくのではなく執拗にお見合いや結婚をすすめる早希にはやはり狂気を感じるし、家族団欒したいと言いつつ本当は優子を追い出したいのかなと思ってしまいました。
優子は会社員時代は仕事が出来ても彼氏がいたことないからって笑われる、仕事が出来るのに協調性がないからと社会からはじかれてしまう……優子を笑い、社会から追い出した人々を仕事で見返すという展開にはならず、お見合い相手がたまたま同じ大学卒で以前から優子に好意を持っていたのでなんだかんだありつつゴールインという幸せ?な結末。
なぜ仕事しないの?と近所の小学生に聞かれても優子は答えず、その疑問は置き去りにされたまま、なぜか結婚の話がトントン拍子に進んでいく展開が個人的には不可解で……いや仕事は?
結婚さえすれば、優子を笑っていた人たちは黙るし、会社から追い出した人たちも厄介払いした負い目もなくなる、ということになるのでしょうか。
理不尽な理由でリストラされても、結婚しちゃえばオールOKってこと??それとこれとは別なのでは、と思ってしまう。
仕事を辞めさせられたことにくすぶってたなら仕事で這い上がってく展開のほうが個人的には見たかった。仕事出来るのに会社クビになったけど結婚したから解決!みたいな結末にモヤってしまった。
私はひねくれてるので、そんなふうに感じてしまいます。
ハッピーエンドなんでしょうけど、しつこいけど優子があの会社の人たちを仕事関係で見返してく展開のほうが個人的には見たかった。でも、そういう映画じゃないんでしょうね。
リストラや地震や、人生には理不尽なことが度々起こるけど、受け入れて生きていかなきゃいけない。楽しんで受け入れるくらいの気持ちで。
それは仕事や結婚を急かすわけでもなく、黙って優子を守っていた近松家のあまろっくこと竜太郎の「人生で起こることはなんでも楽しまな」の精神で。
「楽しむ」って案外難しくて、優子にはそれがなかなか出来なかったんだろうな、竜太郎はお手本になるように「楽しく生きる」ことを優子に見せようとしてたのかな……と思うと切ないけど、もしかしたらそんな深いことは何も考えてなかったかもしれない。
残された人々は想像するしかなく、優子と早希は竜太郎と過ごした時間を胸に、共に生きていくことを決意する。
あの結婚式は、優子と早希が共に生きていくという誓いの場でもあったと思う。
私はひねくれてるので、「1年後」のみんなは幸せそうで何よりだけど、結婚したからって幸せになるとは限らないよ、と思ってしまいます(しつこい)。
なんというか結婚にこだわる時代ではないと言われている現代でも、結婚は最大のハッピーエンドになるんだなと思い知りました。
いろんなシーンで「そうはならんやろ」と思いながら見てしまいましたが、ファンタジー映画として見たら楽しいと思います。
仕事関連でうまく生きられないのを恋愛要素でごまかされた感じがただ単に私には合わなかったので、文句が多くなってしまいました。ごめんなさい。
江口のりこさんや中条あやみさん、鶴瓶さんら、演者の皆さんはとても良かったです。
そして映画館で聴く「アルカセ」もとても良かった。
(しつこいけど追記)
なぜこの映画で感動できなかったのかをしつこく考えてたんですけど、会社クビになって引きこもりになった人に対する早希の対応にモヤったのが大部分かもしれない。
引きこもりの人にいきなりお見合いをすすめるのは乱暴すぎるし(いきなり仕事しろと言うのも配慮なさすぎだけど)、その辺の描き方が無神経すぎて、そこがずっと引っかかって感動できなかったのかもしれません。あんなこと現実の引きこもり当事者にやったらますます引きこもるだけだと思うので真似しないほうがいいです(する人いないと思うけど)。