劇場公開日 2024年4月12日

「抽象的なタッチから生まれるリアルな感情と素っ頓狂なおかしみ」リンダはチキンがたべたい! 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5抽象的なタッチから生まれるリアルな感情と素っ頓狂なおかしみ

2024年4月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

これはゼロからイチを生み出すタイプのアニメーション作品だ。絵のタッチは革命的なほど抽象的で、登場するキャラクターや背景なども単色で塗りつぶされていたりする。なのにどういうわけか、巻き起こるシュールで素っ頓狂なドタバタや心と心のすれ違いが痛いほど切実に、時としておかしく、リアルに伝わってくるのだから不思議なものだ。核となるのはリンダの「チキンがたべたい」という純粋で一途な思いと、無くなった指輪を娘が勝手に持ち出したものと一方的に決めつけてしまった母の申し訳ない気持ち。それらを巡って警察を巻き込んだデッドヒートが繰り広げられ、かと思えば、街では経済活動がストップするほどの大規模なストライキが広がっているのも実にフランスらしい。これら近景と遠景をオーバーラップさせながら、全てが一つの大切な感情と記憶へと集約されていく顛末がしみじみ胸を打つ。珍味ながらこの香りと食感と何とも言えない余韻が癖になる。

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牛津厚信