劇場公開日 2004年6月5日

21グラム : インタビュー

2004年6月2日更新

命が消えるそのときに、人は21グラムだけ軽くなるという。太っていても、痩せていても、幸せでもそうでなくても、誰もが等しく失う重さ。監督デビュー作「アモーレス・ぺロス」で世界に衝撃を与えたメキシコの鬼才、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が、ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、ベニチオ・デル・トロを迎えて送る「21グラム」。本作のプロモーションのため2度目の来日を果たしたイニャリトゥ監督に話を聞いた。

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督インタビュー

「メッセージを込めるよりも、提起した問題について考えてほしいと思ったんだ」

編集部

アレハンドロ・ゴンサレス・ イニャリトゥ監督
アレハンドロ・ゴンサレス・ イニャリトゥ監督

「21グラム」で描かれるテーマは“生”だとイニャリトゥ監督は言う。それぞれのキャラクターは絶望の果てに立たされた時、“それでも人生は続く”と口にする。

「生と死は背中合わせにあるもの。僕は生と死、光と影のコントラストに惹かれるんだ。だから“生”というテーマを選んだんだ」

命が消えるそのときに、人は21グラムだけ軽くなるという。信じがたいが、人々に生きることに対するテーマを投げかける“重さ”をタイトルにした本作。監督自身も脚本家ギジェルモ・アリアガが最初に描いた物語を読んだときは、「なかなか信じられなかった」そうだ。

「先が見えない形で物語が進むから、人々に信じ込ませるのが難しいと思ったんだ」

間違いだらけで失敗ばかり、それでも愛さずにはいられない人間存在のリアリズムを追及するため、脚本は何十回と書き直された。監督と一緒に来日したベニチオ・デル・トロも、撮影に入る前に脚本で描かれるキャラクターを理解しようと多くの時間を費やしたという。

ポール(ショーン・ペン)とクリスティーナ(ナオミ・ワッツ)
ポール(ショーン・ペン)とクリスティーナ(ナオミ・ワッツ)

ひとつの心臓に引き寄せられ、出会うはずのない3つの人生が、ある日突然、交錯しはじめる。余命1カ月と宣告され、心臓移植を待つポール。交通事故で、愛する家族を奪われたクリスティーナ。神にすがり、過去の罪から逃れようとするジャック。それぞれが失い、求めた21グラム。イニャリトゥ監督が思い描いたそれぞれのキャラクターを音楽に例えると「ジャックはジョニー・キャッシュかブルース・スプリングスティーン。ポールはマイルス・デイビスなどの少しインテリっぽいジャズ。クリスティーナはプリンスなどの80~90年代初頭にかけてのバンド系音楽だね」

物語に心打たれたと告白するショーン、脚本を読まずに出演を決めたナオミ、5カ月間に及ぶ役作りを経て挑んだベニチオ。今考え得る最も魅力的なキャストたちの絶大な信頼を得た監督は、それぞれをこう評する。

ジャック(ベニチオ・デル・トロ)
ジャック(ベニチオ・デル・トロ)

「ショーンはとても誠実だよ。ベニチオにはワイルドな魅力がある。いつ噛み付いてくるかわからない猛獣のような鋭さ、そして深さがあるんだ。ナオミは美しく、ピュアで、繊細。そしてどこか痛みをかえているような一面に惹かれるんだ」

「希望」という感覚を失くしているような現在において、あえて希望を描いた「21グラム」に監督が託した思いとは何だったのか?

「特にメッセージを伝えたいと思ったわけではなくて、何か問題を提起したかったんだ。その問題について考えて欲しい、という意図を込めて作ったよ」

21グラムに傷つき、救われながら、それでも続く心の旅。愛、悲しみ、罪の激流にもがきながら、それでも泳ぎ続ける3人がたどり着いた先に広がる全ての始まり。イニャリトゥ監督が描く、絶望の果ての希望の物語「21グラム」。この映画を観た後、考えずにはいられない。命が消えるそのときに、誰もが失う21グラムとは一体何の重さなのかと。

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