劇場公開日 2024年4月12日

「「アングラ」に向かう主人公の探偵。「アングラ」から「日の当たる場所」に出てきた塚原監督!」クラユカバ じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5「アングラ」に向かう主人公の探偵。「アングラ」から「日の当たる場所」に出てきた塚原監督!

2024年5月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

大好物の材料だけで出来ているデザートが、何故か食べてみたら、その味にピンと来なかった……そんな感じ。

江戸川乱歩風の「大正浪漫」伝奇世界×スチームパンク。
探偵対怪人。仮面の集団。帝都をゆるがす組織犯罪。
地下世界=アンダーグラウンド=アングラ。
宮崎駿風のアクションと『甲鉄城のカバネリ』風の装甲列車。
徹底した設定の作り込みと、わくわくするような「クラガリ」のビジュアル。

面白くなりそうな要素は満載なのに、総じてなんだか物足りない。

まずキャラクターに深みがない。
探偵に魅力がない(単に潜入してワタワタしているだけで、謎を解く役に全然立っていない)。
ヒロインに魅力がない(ぽっと出て来るだけの娘と、その配下で戦ってるだけの娘と、ほぼ捕まっているだけの娘と。全員一切掘り下げられない)。
敵に魅力がない(なんで徒党を組んで地下でこんなことをやってるのかの説明もない)。

それから、謎に魅力がない。
少女集団失踪事件に「意外なミッシングリンク」とか「思いがけないカラクリ」などはほぼ出て来ない。そもそも途中から集団失踪事件のことはどうでもいいかのような展開になって、別の流れでドンパチやっている感じ。映画を観ただけで、誰がなんでこんな犯罪を仕組んでいたかをちゃんと説明できる人はあまりいないのではないか?

なにより、ストーリーテリングに魅力がない。
ほとんどの設定説明や状況の解説を、登場人物の行動や会話でのやりとりで明らかにしていくのではなく、探偵役の神田伯山やマスコットキャラの「説明台詞」で、延々しゃべくりまくってト書きとして明かしていくだけなので、すべてが上滑りで頭に入ってこず、流れはとことん平板で、ひたすら眠たくなり、余計に筋がわからなくなる。
そりゃ、わかりにくいのに面白い映画、平板なのに引き込まれる映画だってゴマンとあるが、この映画の場合は「単純にあんまり面白くない」としか言いようがない。
要するに、語り口(ナラティヴ)とプロットに大いに難がある。

たとえてみれば、ガワの「細工」にだけ途方もない手間暇をかけて豪勢に飾り立てておいて、肝心の「味」をおろそかにしているデコレーションケーキのようなものか。
ガワの「細工」だけでも十分愉しめるといえば愉しめるんだけど、普通こういう大正冒険奇譚のような話って血沸き肉躍るお話がついてくるもんじゃないのか? 乱歩の少年探偵団みたいに。あるいはもっとビザールでえげつない、丸尾末広とか古屋兎丸みたいなのでも全然いいんだけど。

パンフが売り切れていて買えなかったので、監督の意気込みとか細部の設定に込めた想いとか地下世界に対する妄執のようなものを、こちらがうまく拾えていないのは確かで、そこは封切りすぐに観に行かなかった当方が悪いのかもしれない。
なんとなく「パンフとセットで世界観がようやく理解できる映画」だという気もするし。ちょうど『JUNK HEAD』みたいに……。
ちなみに、監督の個人制作というのが「売り」になった『クラユカバ』と『JUNK HEAD』と『MAD GOD』のいずれもが、思い切り「地下世界に潜入していく話」という点で被ってるのは、面白い符合だよね。地下を夢想し執着するようなタイプの人が、一人でせこせことモノづくりに没頭する作業にはまりやすいってことなのか。

でもまあ、ぶっちゃけもう少し「ふつうに面白い話」にはいくらでも出来た気はするし、根本的なそういう方向の「スキル」が足りないんじゃないかとも思うんだよね。
ちょっと、芦辺拓の初期の『怪人対名探偵』とかの雰囲気に近いというか。乱歩的な世界観を背景に、ご本人は細かい仕掛けを大量に施して悦に入っているんだけど、肝心のお話が雑駁すぎて、結局はどうにも独りよがりな作品に堕している感じが、とてもよく似ている。

とまあ、あまりネガティヴなことを書き連ねていていも感じが悪いだけなのでこの辺でやめておくが、一応この後立て続けに観た『クラメルカガリ』を「褒める」ための前座ということでご勘弁下さい。

もちろん、良かった部分もたくさんある。
とにかく、美術や世界観の練り込みはハンパではなく、擬古文風の語りも含めて、本当に手間暇のかかったアニメであることは間違いない。
あと、アクション作画も、個人制作とは思えないくらい凝っていて、その宮崎駿フォロワー感を見ると、ああこの人も新海誠と同じで、「ジブリにどっぷり」な自分をうまく「ジブリっぽくないように見せる」ためにいろいろ努力している人なのだろうと思う。
新海は『星を追うこども』みたいな完全なジブリ模倣作を挟むなど、いろいろと試行錯誤を繰り返した末、エロゲ的要素とジブリ的要素の混淆物として、自らの作風の地歩を固めた。
塚原重義監督の場合は、江戸川乱歩的な(もしかすると『サクラ大戦』とか『御神楽少女探偵団』みたいな美少女ゲームが発端なのかもしれないけどw)「アングラ風大正浪漫」がその「取り合わせの素材」ということなのだろう。
ま、アングラとレトロへの思い入れは、よーーーくわかった(笑)。
あとは、「エンタメ」としての技量を磨いていってもらえれば、観客としてはありがたい。

声優陣では、神田伯山がごくふつうに上手で感心した。やはり単なる俳優ではなく、「語り」が本職で、しかもいろいろな役の声音を語り分けているような人は、声優をやらせても抜群である。ノリノリで映画に貢献しているし、番宣も頑張っているし、こういう世界観が伯山自身大好物で、なんとか一人で頑張ってきた監督を「同志」として応援したいんだろうね。

地下世界(=アングラ/アンダーグラウンド)にこだわり続ける塚原監督。
地上の平穏を捨てて、地下のどんちゃん騒ぎに敢えて身を投じる探偵の物語。
そんなアングラ監督を「地上の日の当たる世界」に引っぱりだして「日の目を見させてやろう」と頑張る、探偵役の神田伯山。
そう考えると、地下に向かう主人公と、日の当たる場所に出てきた監督という対比はなかなか面白い気もする。

続きは、『クラメルカガリ』にて。

じゃい