イントゥ・ザ・インフェルノ マグマの世界 : 佐々木俊尚 ドキュメンタリーの時代

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コラム:佐々木俊尚 ドキュメンタリーの時代 - 第43回

2016年11月9日更新

第43回:イントゥ・ザ・インフェルノ マグマの世界

火山というのは、あまりにも圧倒的な自然だ。台風や地震ならまだ何とか生き残る可能性があると思えるが、火山は別格だ。たとえば最近噴火した九州の阿蘇山は、過去に4回の巨大カルデラ噴火を起こしていて、中でも最後の9万年前のヤツは火砕流が九州中央部を覆い尽くし、関門海峡を越えて山口県にまで達したほどだった。そんな時に九州にいたら……と想像さえできない。

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そういう超越した存在である火山を、ドイツの名監督ヴェルナー・ヘルツォークが描く。ものすごく期待させる組み合わせである。西洋の鎧かぶとに身を包んだ16世紀のスペイン人たちがアマゾンの蒸し風呂のような灼熱の中を放浪する「アギーレ/神の怒り」。大きな蒸気船を人力でアマゾン奥地の山の上へと運び上げるシーンが有名な「フィツカラルド」。ヘルツォークの映画はつねに神話的で、自然と人間が渾然一体となったマジックリアリズムな世界を見せてくれる。最近では、フランスのショーヴェ洞窟の壁画を映した「世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶」というドキュメンタリーも手がけていた。

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本作はNetflixのために制作されたドキュメンタリーだが、いつもの「ヘルツォーク節」が作品のすみずみにまであふれている。監督が火山学者とともに訪れる火山は、バヌアツ、南極、インドネシア、エチオピア、アイスランド、北朝鮮。まずびっくりさせられるのは、至近距離から撮影された火口や溶岩の映像だ。中にはまるで瀬を流れ落ちる沢のような速度で動く溶岩もあり、驚かされる。

もっとゆっくり流れるものだと勝手に思っていたのに……。生き物のようにすばやくクネクネと動く溶岩の映像を見ていると、まばたきさえ忘れて魅せられてしまう。

ヘルツォーク監督が自ら火山に迫る ヘルツォーク監督が自ら火山に迫る Professor Clive Oppenheimer, Werner Herzog

南極の火山では、火口のマグマを目で見ることができる。溶岩のあちこちにある割れ目が真っ赤に染まり、全体がふくらんで息をしているように見える。「シン・ゴジラ」の恐ろしい背中そのものだ。

アイスランドでは、街のすぐそばの丘陵から前触れもなく突然、火柱が吹き上げる。

ふもとに住む人々は、火山にさまざまなことを思う。人は死ぬと火口へと帰っていき、火口には死者が住んでいるのが見えると語る老人。火山を望む台地に建設されている、不気味な鶏のかたちをしたカトリック教会。床下には薄暗い地下墓地があり、噴火のときのシェルターとして用意しているのかもしれない。北朝鮮の白頭山には、軍服姿の学生たちが整列してやってきて、いっせいに大声をあげ、歓喜に満ちて「アリラン」を合唱する。

異形の風習の人たちと、神を超えるような火山の生きる姿。ヘルツォークの好きな宗教的音楽に彩られ、世界の終わりを静かに見せられているような作品だった。

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■「イントゥ・ザ・インフェルノ マグマの世界
2016年/イギリス=ドイツ=カナダ合作
監督:ベルナー・ヘルツォーク
Netflixで配信中
作品情報

[筆者紹介]

佐々木俊尚

佐々木俊尚(ささき・としなお)。1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政経学部政治学科中退。毎日新聞社社会部、月刊アスキー編集部を経て、2003年に独立。以降フリージャーナリストとして活動。2011年、著書「電子書籍の衝撃」で大川出版賞を受賞。近著に「レイヤー化する世界―テクノロジーとの共犯関係が始まる」(NHK出版新書)など。

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