コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第23回

2015年6月24日更新

佐藤久理子 Paris, je t'aime

アヌシー国際アニメ映画祭閉幕 「百日紅 Miss HOKUSAI 」が審査員賞

第55回を迎えたアニメ最大の国際映画祭アヌシー国際アニメーション映画祭が6月20日に終了し、長編コンペティション部門に参加した原恵一の「百日紅 Miss HOKUSAI」が審査員賞を受賞した。近年日本のアニメはアヌシーの常連になっているが、今年はコンペに原作品と岩井俊二の「花とアリス殺人事件」が入選。また短編部門には坂元友介の「ナポリタンの夜」、今年のベルリン映画祭でアウディ賞に輝いた瀬戸桃子のフランス制作作品「プラネットΣ(シグマ)」、その他コミッションドゥ(受託)部門と学生部門もあわせ、日本人監督の作品が6本そろった。

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原監督は2011年に、「カラフル」で同映画祭の審査員賞と観客賞を受賞しており、アニメ界では国際的に名が知られている。杉浦日向子の短編漫画を元にした「百日紅 Miss HOKUSAI」は、葛飾北斎の娘、お栄を描いた時代劇で、監督の前作とはがらりと趣を異にするものの、浮世絵や北斎はヨーロッパでも有名であることも手伝って、本作にもさらなる注目が集まっていた。浮世絵というクラシックな題材を元に、ストーリー自体はお栄の青春を描いた“浮世エンタテインメント”の要素と、緻密な映像描写が、高い評価を受けた結果となった。

一方、2004年の実写「花とアリス」の前日譚にあたる「花とアリス殺人事件」を初のアニメ作品として制作した岩井俊二は、アニメ界では新人。実写の世界でも、アジアでは有名ながらヨーロッパでは劇場公開されている作品が少なく、これから発掘されるべき存在と言えるだろう。もっとも、アヌシーでの注目度は高く上映会はほぼ満席、上映中も笑いが起こるなどのリアクションが見られた。記者会見で監督は、「アニメ界の人にとっては上映されることが大きな目標であるこの映画祭に参加できてしまったので、帰国したら刺されるかも」とジョークで会場を沸かせた後、「感無量です」と語った。また作品を今回アニメで撮った点について、「引きこもりの女の子が外に出て行くという、とても小さな話ですが、動かしている痕跡が残るアニメーションだからこそ、そんな小さな話も魅力的に描けるのだと思った」と語り、今後もアニメ作品に関わっていく可能性を示唆した。

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最高賞のクリスタル賞に輝いたのは、フランス、カナダ、ベルギー合作の「Avril et le Monde truque」。監督は、「ペルセポリス」でアニメーションスーパーバイザーを務めたクリスチャン・デマレスと、フランク・エキンチ。舞台はナポレオン5世が統治する(架空の)1941年のフランス。そこでは科学者が失踪する謎の事件がたびたび起きていた。ヒロイン、アブリルの両親もそんな被害者に。アブリルは両親の行方を追って、喋る愛猫や仲間とともに旅に出るが、やがて秘密を知り、危険にさらされる。日本のアニメキャラとは異なり、美男美女の主人公ではないところにまた人間味がある。想像力あふれるストーリーとともに、その個性の豊かさが評価された。

フランス東部の小さな街で開かれるこの映画祭は、アニメーションのカンヌと言われるほど、いまやプレステージが高い(もとはカンヌ映画祭から派生している)。今年は各国からバイヤーを含め8250名のプロフェッショナルが集まり、参加者数は12万5000人にのぼった。オフィシャルセレクションは長編と短編、テレビ・アニメ部門、学生映画部門、そしてコミッションドゥ部門の5つ。また一般観客にも人気の野外上映やサイン会、展覧会などが企画され、年々規模を増している。今年はスペインにスポットを当てたスペシャルプログラムの他、「女性とアニメーション」と題し、アニメ界に貢献をもたらした女性にスポットを当てる企画も。カナダのジャネット・パールマンや、“ペインティッド・フィルム”と言われる独特の映像スタイルで知られ、今年栄誉クリスタル賞を授与されたフランスのフロランス・ミエレらの作品が紹介された。実写の世界では、最近でこそカンヌやアカデミー賞などで、女性監督の存在やその地位にスポットが当たるようになったものの、アニメの世界はまだまだ男性主権。そんな風潮のなかでのユニークで新鮮な試みだった。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

Twitter:@KurikoSato

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