09年サマーシーズン最大の衝撃作「ディストリクト9」 : FROM HOLLYWOOD CAFE

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第117回:09年サマーシーズン最大の衝撃作「ディストリクト9」

09年夏の映画シーズンがようやく幕を閉じた。個人的には「スター・トレック」や「カールじいさんの空飛ぶ家」「(500)日のサマー」といったバラエティ豊かな良作と巡り合うことができて、とても充実したサマーシーズンだったのだが、なかでももっとも衝撃を受けたのが「ディストリクト9」だった。この映画がピーター・ジャクソンのプロデュース作とは以前から知っていたものの、出演者は全員無名で、製作費はわずか3000万ドル、おまけにメガホンを握るのはニール・ブロムカンプという新人監督だったため、まるっきり期待していなかった。SFでドキュメンタリー的手法を採用したスタイルも、「クローバーフィールド」の二番煎じに思えたし。

街中のいたるところに貼られたポスター街中のいたるところに貼られたポスター[拡大画像]

しかし、全米公開日の8月14日が近づくにつれて、「ディストリクト9」への注目度が異常なほど高まっていった。バス停のベンチやビルボードで展開されたミステリアスな宣伝手法のおかげもあるが、最大の要因は6月下旬にサンディエゴで行われたコミコンだ。このとき初上映された「ディストリクト9」の評判はすさまじいほどで、クチコミが一気に広まったのである。かくして、ぼくは公開初日に映画館に繰り出すことになった。

ディストリクト9」は、宇宙人との遭遇を描いたSF映画だ。こう説明すると、「インデペンデンス・デイ」や「宇宙戦争」のような襲来ものか、あるいは、「未知との遭遇」や「E.T.」のような、知的生命体とのファーストコンタクト物を想像するだろう。しかし、「ディストリクト9」は、こちらの予想を軽々と裏切ってみせる。なにしろ、この映画に登場する宇宙人はスラム街での生活を強いられている憐れな存在なのだ。

舞台背景はこうだ。20数年前、南アフリカ上空に突如、UFOが飛来。しかし、巨大円盤はヨハネスブルグ上空に停泊したきり、エンストしたかのように動かない。痺れを切らした南アフリカの人々は、ヘリコプターで捜索隊をUFOに派遣。すると、内部にいたのは巨大昆虫のような容姿をした宇宙人の群れだった。南アフリカは彼らを難民として受け入れるものの、言葉が通じず、粗野で無教養に見えるエイリアンが一般市民と仲良く暮らせるはずもない。エイリアンはその容姿からPrawn(手長エビ)と蔑まれ、暴力事件が多発。そのため、エイリアンは特別居住区に押しやられることになる。ヨハネスブルグ内にあるエイリアン居住区の名称こそが、「ディストリクト9(第9地区)」なのだ。

長々と説明してしまったが、以上はあくまでもバックストーリー。民間軍事企業UMDの一社員がディストリクト9でトラブルに遭ったことがきっかけで、壮大なアクションが展開することになる。

バス停のベンチにも!バス停のベンチにも![拡大画像]

ディストリクト9」の素晴らしさを一言で言うならば、ハリウッド映画にはない危険な魅力に満ち溢れていることだろう。ハリウッドで作られる大作は、安定感こそあるものの、サプライズに欠ける傾向がある。それはスタジオの重役が、万人に受けいれてもらうために、リスク要因を排除しているためだ。それに対し、ピーター・ジャクソンが製作した「ディストリクト9」は、自主規制がない。たとえば、エイリアンの隔離政策がアパルトヘイトのメタファーであることは、南アフリカを舞台していることからも容易に察しがつくだろう。じっさい、「ディストリクト9」は、安全装置の外れたジェットコースターのようだ。「インデペンデンス・デイ」的な展開で幕を開けたかと思うと、「シティ・オブ・ゴッド」のようなスラム街ドラマになり、そこに「ザ・フライ」や「ロボコップ」や「ダンス・ウィズ・ウルブス」といった、相容れないはずの要素が折り重なってくる。あとになってみれば、「ディストリクト9」が逃走劇の公式にしっかり収まった娯楽大作であることが分かるのだが、ハリウッド映画のパターンをことごとく打ち破っているから、鑑賞しているあいだは先の展開を読むことができない。しかも、最後にはすがすがしい感動が待っているのだから、あっぱれとしか言いようがない。

おそらく作られるであろう続編「ディストリクト10」が、いまから楽しみだ。

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FROM HOLLYWOOD CAFE ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/ライターの小西未来氏が、ビビッドなハリウッドの姿を毎月届けてくれます。毎月1日頃更新

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