コラム:若林ゆり 舞台.com - 第61回
2017年11月7日更新
第61回:ミュージカル俳優・小池徹平が刺激だらけの「ロッキー・ホラー・ショー」でさらに進化中!
カルト映画といえば、まずこの作品を思い浮かべる映画ファンが多いのではないだろうか。B級2本立てのSF怪奇映画にオマージュを捧げ、倒錯とグラムロック、濃いキャラクターにハチャメチャな展開が満載された異色のミュージカル、「ロッキー・ホラー・ショー」。封切り当初は低評価で不発に終わりそうだったというが、1年後の深夜再上映が大当たり。カルト人気に火がついたお化け映画である。コスプレをして映画館に通い、スクリーンと呼応して演技をしたり紙吹雪や米をまいたりする熱狂的リピーターを生みだしたことでも有名なこの作品、脚本・作詞・作曲を手がけたのはリフラフ役のリチャード・オブライエン。実は1973年に始まったロンドンの舞台ミュージカルが先なのだ。
婚約したばかりのカップル、ブラッドとジャネットが、両性具有的な異星人の科学者、フランク・フルターの住む古城に迷い込んで翻弄される物語。日本では70年代に来日公演もあったが、1986年に藤木孝のフランク役で日本人キャスト版が幕を開け、95年から2000年まではこの作品の大ファンを自認するROLLYが主演。2011年には古田新太がフランクに扮した、劇団☆新感線のいのうえひでのり演出版が大評判を取った。そして、2017年。古田が今度は気鋭の売れっ子演出家、河原雅彦とのタッグで再びフランクに挑む。これが楽しくならないわけがない。今回の公演で磨きがかかった“フランク・古田ー”とともに楽しみなのが、ブラッドを演じる小池徹平。このキャスティングは、古田による直々のご指名だったという。
「古田さんにしてみたら、僕がこう見えて意外と心臓に毛の生えた人間みたいに思えたんじゃないですか」と、小池は笑う。古田との共演はNHKの朝ドラ『あまちゃん』だけなのだが、舞台を見に行ったり飲みの場で度々交流。「古田さんが、僕の見た目ではない部分をちゃんと見抜いてキャスティングしてくれたんだと思うんですよ。僕、何言われてもけっこう大丈夫だし、何でもやるし。飲みながら話していて『なんだコイツ。イメージと違うな! バカだな!』と思って選んでくださったんじゃないですかね」
演じるブラッドはどういう人物?
「いやもう、バカ正直ですよ(笑)。ソニンさん演じるジャネットがただただ好きな、バカな男です。フランクにいろいろ開発されて変わっていくんですけど、1幕は『電話貸してくんないかな?』としか思ってないし(笑)。2幕は『何が何だかよくわかんない、ジャネットも大事だけど宇宙人恐いし』って感じです(笑)」
とはいえ、役が決まってから改めて映画版を見ることで、舞台への期待がいっそう膨らんだという。
「映画は最初、全然意味がわからなくて(笑)。『よくわかんないバカな人たちが暴れまくってるな!』という印象しかなかったんです。ストーリーはあんまり入ってこないし。でもとにかく『うわーっ』という世界観で、いろんな個性の濃い人たちがいるからすごいインパクトではあるんですよね。見ていて『これを舞台でやるとどういうことになるんだろう』という興味が一気に湧きました。世界各国で上演した舞台版の音源を聴いても、それぞれが好き勝手にやっているんですよ。だから日本版も、古田さんを筆頭にこの作品を愛する人たちが好き勝手やれば、絶対に面白いと思います」
この作品に熱狂的なファンがついたいちばんの理由は、「楽曲の魅力」ではないかと小池は感じている。
「ぶっ飛んだ設定とかもたまらないんだろうけど、やっぱり聴けば聴くほど取りつかれるような楽曲の力ですよね。楽譜を見るとすごく単純なコードなんですけど、『これでどうしてこんなに中毒性のある曲に作れるんだろうなぁ』と思います。歌詞も、狂ってるといったら狂っているんですけど、メチャクチャよくできているんですよ、うまーく韻が踏まれていて。狂っているように見せかけて、意外と緻密な計算がされている楽曲という印象。しかもROLLYさんの訳詞がまた絶妙で。たとえば『タイムワープ』という曲で、最初の『Do it! Do it!』というところを、音の似た『どや! どや!』にしているのなんて見事じゃないですか。ただ訳したんじゃつまらなくなるところを、韻を優先して同じノリを生みだしていて、素晴らしいなと思います」
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka