コラム:若林ゆり 舞台.com - 第25回

2015年3月5日更新

若林ゆり 舞台.com

第25回:シェイクスピアのラブコメ「十二夜」で恋する双子の兄妹を演じる元男役・音月桂は超適役!

男装して少年らしく振る舞うことが当たり前にできる男役の技術はケアードをも感動させているが、音月にとっての難関は、シェイクスピア独特の台詞。宝塚でミュージカル版「ロミオとジュリエット」でロミオを演じた経験があるものの、そのときとは状況がまるで違うという。

「シェイクスピアの台詞ってもともと韻を踏んだりしてテンポをうまく使って、流れるようになっているんですね。『ロミオとジュリエット』のときはすべてにメロディがついていたから、台詞そのもののリズムはあまり必要とされていなかった。でも実は、シェイクスピアって台詞のやりとりにムダな“間”がないんですよ。いままで私は演じるとき、気持ちを切り替えるのに“間”を使っていたんです。相手から来たボールを受け止めて、自分なりに考えてから投げ返す、という感じで。でも、ジョン(・ケアード)からはそういう“間”をできるだけ短くしてほしい、できれば1つの台詞を2人で分け合いながら言うくらいの勢いでって言われて。これが難しい! どうしてもワンクッション置きたくなるんですよ、感じるために。台詞のテンポが先、そこに感情を乗せていくというのはいままでやったことのなかったやり方なので、うまく自分の体になじむまではたいへんでした」

もうひとつ、音月の魅力といえばその伸びやかな声。滑舌がよくクセのない発声は快く響き、まっすぐに感情を伝えてくれる。この美声がシェイクスピアの台詞を奏でれば、極上の相乗効果は間違いない。

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「恋のことを語るのに、『蕾にひそむ虫のような片想いに薔薇色の頬を蝕ませたのです』っていう台詞があるんですけど、『何のこっちゃ? ナニナニ?』と思うでしょ(笑)。でもその『ナニ?』が想像力を刺激するし、だからこそ面白いんですよね。答えは絶対に1つではないですし。たとえばヴァイオラは、自分の恋している人はお嬢様に夢中だし、男装したことでお嬢様は自分に間違って恋してしまって、もう、どうしたらいいのー!? っていうときに『時よ、これをほぐすのはお前の役目。私じゃない』って言うんですよ。『時が解決する』ってことを言うのに、こんなに!? ってほど長々と美しく(笑)。私だったら『時間が経てば直るね』で終わっちゃう(笑)。それがシェイクスピアの台詞ではすごく広がるし、ちょっと遠回りになっていて。『好き』っていうのも回りくどくて、たとえとかをワーッといろいろ言ってからゴールする(笑)。でもだからこそ心を揺さぶられたり感動できるんだなと思うと、どの言葉も無駄じゃない、大切にしなきゃって思います」

宝塚を退団してからしばらくは舞台を離れ、女優としてドラマ(「MOZU」)や映画(「想いのこし」「種まく旅人 くにうみの郷」)など、映像を中心に活動をしていた。そこでは男役から女性に戻るための“リハビリ”より、宝塚独特の表現法から離れるための“リハビリ”が必要だったという。

「宝塚は様式美の世界。美しく見せることが優先で、遠い席の方にも届けなきゃと思うとどうしてもオーバーなお芝居になるんです。でも映像って、目線とか、うなずくのでもちょっと頭を傾けるだけで表現できる世界じゃないですか。そういう未知の表現にすごく興味があって、勉強させたいただきました。お稽古にどっぷり1カ月以上をかけて成長していける舞台と違って、映像では瞬発力が命で、戸惑いましたね。さっき会ったばかりの方といきなり夫婦とか(笑)。それに生身の感情をさらけ出すようなところがあって、素顔がのぞいてしまいそうで恐い気がしました。まあ私はもともとオトコオトコしたタイプの男役ではなかったんですけど、宝塚にいたからとか男役だったからじゃなくて、いちいちリアクションがおっきいんですよ(笑)。だから映像の仕事では、ついついフレームアウトしてしまって苦労したり (笑)。まだまだ、私は映像の楽しみというのをわかっていないかな。これからもっともっと追求したいし、それを少しでも経験したからこそ、舞台でもお人形さんのような芝居にならずにすむところがあるのかもしれないって思っているんです」

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さらにケアードによる今回の演出は、観客にとって「体感型になりそう」だと目を輝かせる。

「ジョンから『オーディエンスをもっと意識して』って言われて、私はその言葉に、お客様と一緒に作品をつくるというイメージを感じたんですね。だから、ただ一方的に発信するだけじゃなくて、お客様にもシェイクスピアの『十二夜』の中に1人の登場人物として入り込んで、一緒に楽しむような感覚で来ていただけたらな、と思うんです。実際、お客様1人1人のリアクションを見て対話するようなお芝居をするところがあるんですけど、うまくお客様を引き込めたらいいな。そういう楽しみは映画や映像では味わえないものですから。私としては、舞台の上で演じるというより、役としてどう生きられるか。今回は生きなきゃいけない人が2人いますから(笑)。魂のすべてを注ぎます!」

十二夜」は3月8日~3月30日、日比谷・日生劇場で上演される。4月7日・大分公演、4月10日〜12日・梅田芸術劇場でも公演あり。詳しい情報は公式HPへ。
http://www.tohostage.com/12ya/

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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