ロマンポルノ初体験のスタッフが時代を超えた2作を見比べ! 映画.com編集部“牝猫”座談会 : 特集
ロマンポルノ初体験のスタッフが時代を超えた2作を見比べ! 映画.com編集部“牝猫”座談会
話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービスシネマ映画.comで開催中の「ロマンポルノ映画祭」。映画祭では、映画.comがセレクトしたバラエティ豊かな旧作12本が好評配信中です。
今回の映画祭開催にあたり、初めてロマンポルノを見たスタッフも含め、ロマンポルノ全盛期をリアルで知らない世代が、田中登監督の「牝猫たちの夜」、そして「ロマンポルノ」45周年を記念した「日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」の1作である白石和彌監督「牝猫たち」を鑑賞し、その感想を語り合いました!
座談会参加メンバー蛯谷朋実、佐藤レモナ、ドーナッツかじり、今田カミーユ
■初めてのロマンポルノ 「牝猫たちの夜」は「安心して見られる、明るいエロ」!今田 ロマンポルノ50周年を記念し9月からは新作も公開されますが、皆さんこれまでロマンポルノは何か見たことがありましたか?
蛯谷 私は今回ロマンポルノ映画祭を開催するにあたって初めていくつか見させていただきました。
佐藤 私は今回の作品が初めてでした。避けていたわけではないのですが、これまで見ようという機会もなく……。
ドーナッツ 私もロマンポルノというジャンルは、本作が初めてでした!
今田 みなさん、今回がロマンポルノ初体験ということですね! 初めて見て、思い描いていたロマンポルノというイメージと、実際に鑑賞してのギャップはありましたか?
ドーナッツ 何となく、ロマンポルノにはしっとりした(?)、艶のあるイメージを抱いていたので、「牝猫たちの夜」に関して言うと、明るく快活な雰囲気に、ギャップを感じました。「安心して見られる、明るいエロ」という印象でした! 当時の風俗店の待合室も、キャバクラのような雰囲気でしたし。(今は担当以外の従業員とお客さんは、顔を合わせないようにすることも多いと聞いたことがあるので)
蛯谷 私は正直、お色気が前面に出ていてあまりストーリーは大切にされていないのがポルノ映画なのかなと、勝手に思っていたのですが……。いざ見てみたら、ストーリーがそれぞれしっかりしていて、さらに登場人物も多くて描くのが難しそうなものを、ひとりひとり魅力的に描かれていて見入ってしまいました。
佐藤 私もギャップはかなりありました。言い方が正しいかわからないですが、想像の何倍も面白くて絵になるきれいなシーンもあるし、ストーリーも凝っているなと。
■女性同士の会話が小気味よく、鑑賞後に前向きになれる!今田 なるほど。皆さん良い意味でイメージを裏切られたということですね。傑作として名高い田中登監督の「牝猫たちの夜」はいかがでしたか?
佐藤 私はこの「牝猫たちの夜」から鑑賞したので、本当にロマンポルノ初体験の作品です! まず冒頭の食事シーンで「!?」ってなって一人で深夜に笑いました。それそんな風に食べるところ映すんだみたいな。落ち込んだり悲しんだときの表現も、今の映画とギャップがあって個人的に好きだったので、鑑賞中は「みんなどうか幸せになって!」とお祈りするくらい、感情移入もしました。
ドーナッツ サクランボを咥えさせられて、遊園地(デパートの屋上みたいなところかも?)で、ことが始まりそうになるシーンが好きでした!「もういいよ!」と突っ込みたくなるくらい、遊んでいる子どもたちや、そばを通る人々のカットが執拗に挿入されるので、背徳感の演出に、ちょっと笑ってしまいました。あと、冒頭の食事シーンは私も大好きで、スパゲッティとか、牛丼とか、女性たちがもりもり食べるのが無邪気でパワフルで、めちゃくちゃ良かったです。
今田 あの絶妙なサイズのソーセージ乗せパスタ、とても美味しそうでしたね。
蛯谷 「ハンバーグにすればよかった」は笑いました!(笑)
ドーナッツ 食べながら「仕事のこと思い出しちゃうわ~」とか、たくまし過ぎますよね(笑)
蛯谷 この作品は女性同士の会話がすごく小気味よくてよかったです!
■当時の新宿の情景と朝が印象的蛯谷 私は同じ田中監督の「(秘)色情めす市場」も見ていたのですが、この「牝猫たちの夜」もなんといっても街の情景が印象に残りました。オープニングの展望レストランから新宿の街並みに降りていくエレベーターやラストシーンの明け方の誰もいない新宿など、なんとなく場所はわかるんだけれど見たことがない新宿の姿だなと。
佐藤 情景わかります~。ラストシーンの明け方は特に余韻があって好きでした。
今田 牝猫たちの「夜」とあるけれど、あの「朝」がとても印象的な映画ですよね。
蛯谷 確かに室内ではなくて外に出るシーンも多いからかあまり「夜」という印象は強くないですよね。ラストは「夜」を超えた牝猫たちが迎える一つの「朝」という結末という印象も受けました。
ドーナッツ 散歩のシーンなども多いので、当時の新宿の空気や、匂いを感じられる作品でもありますね。劇中では女性たちの悲喜こもごもが描かれていますが、また新たな「朝」になって、これからも生きていくというような……。
佐藤 全体的にからっとしていて、鑑賞後にはちょっと前向きになれるような作品ですよね。
■風俗店での人間模様に心を動かされる……佐藤 私はお店で、女性の背中を洗ってくれる社長さんの存在が太陽のように感じました。
今田 あの社長さん!(笑)。場所が場所だけに、公然と褒められるようなことではないのかもしれませんが、ああいう関係は素敵ですよね。お互いに人間同士のお付き合いができるという。
佐藤 嫌なお客さんもいれば、いいお客さんもいるんだなと救われる存在でした。
蛯谷 社長さんいいですよね。「新宿」を離れて「大阪」に行っちゃおうかなと思える逃げ道を彼女に与えてくれて本当に良かったと思いました。
ドーナッツ 本当に、ああいういいお客さんばかりだと良いのですが……。
今田 誰も傷つけない“いい人”たちを描くのが良しとされている昨今の風潮はありますが、いわゆる悪い人、ダメになった人との出会いもあるのが人生ですよね。社長さんが素敵だった一方で、あの銀行員には驚きましたよ……。
蛯谷 ギャップがすごい銀行員!
ドーナッツ 良い人だった(個人的にもちょっと好きになりかけた)のに! よく考えると、あのラーメン屋での会話とか、伏線になっていたんですね……悲しい……。
佐藤 あの銀行員は呪われてくれと願いました……。
今田 私はあの銀行員に一生EDになる呪いをかけたいと思いました(笑)。
蛯谷 あと印象的だったのは傘を使ってたシーンでした。ゲイで女性とセックスができない誠に手ほどきしていて唐突にビニール傘が出てくるなとおもっていたら、まさかあんな伏線だなんて……
今田 そうですよね。傘のほかに、キャベツやサイコロなど、なにかの隠喩にも受け取れるような……物語における小道具の使い方が秀逸でしたね。
■白石和彌監督の「牝猫たち」は、現代の男と女たちの背景がリアルに描かれている
今田 白石監督の「牝猫たち」はいかがでしたか?
ドーナッツ 「牝猫たち」では、舞台が池袋になっているんですね。「牝猫たちの夜」と比べて、女性たち、そしてお客さんたちが抱える複雑な事情や背景が、より丁寧に描かれているなと感じました。家がなかったり、子どもがいたり、実は家庭があったり……。
蛯谷 「牝猫たちの夜」はトルコ風呂と呼ばれていた風俗店がどんな場所なのかとか、背景が気になっている部分があったのですが、舞台が現代というのもあり「牝猫たち」はすごく見やすくて入り込みやすかったです。女性たちの背景もそうですが、男性たちの背景も丁寧でしたよね。お金はもっているがネットの中だけで生きている男とか、子どもを預かって日銭を稼ぐ男とか、奥さんが亡くなったことへの執着からデリヘルを頼む男性とか……。
佐藤 私もドラマ部分がより丁寧になっているなと思いました。現代でニュースになっていそうな悩みばかりでしたよね。
ドーナッツ それぞれの人物造形が、すごく現代的でした。
蛯谷 女も男もどこか満たされなくて、風俗というものを介してちょっとした心の隙間を埋めてるんだなというのがありありと描かれていましたね。
ドーナッツ 「牝猫たちの夜」の女性たちは、いろいろと大変なことはあるけれど、根は善人というか「陽」のイメージだったのですが、「牝猫たち」の女性たちは、子どもを虐待しているなど、必ずしも善人ではないところも、綺麗事ばかりじゃなくてリアルだなと思いました。蛯谷さんのおっしゃる通り、真に幸福な人は、誰も出てこないですよね……。
蛯谷 そういう意味では「牝猫たちの夜」は今見ると、少し男性の身勝手さで女性がただ「陽」を押し付けられているのではと感じる部分もあったのですが、「牝猫たち」は本当に現代的で女性の陰の部分もしっかり描いているなと感じましたね。
ドーナッツ 確かに「牝猫たちの夜」は、「女性にはこうあってほしい」という、男性が望む女性像みたいなものを押しつけられている感もありました。
今田 そうですね、同性として悲しくなるけどわかる……という描写もいくつかありました。
■俳優陣の意外な配役 その演技に引き込まれる!佐藤 重い、でもイイみたいな。「牝猫たちの夜」で独特のキャラを演じていた吉澤健さんが、今作にも登場して嬉しい&驚きました。
蛯谷 白石和彌監督が田中登監督のファンで、これは「牝猫たちの夜」へのオマージュ作なんですよね。吉澤さんはその後の白石監督作品「凪待ち」や「麻雀放浪記2020」「死刑にいたる病」にも出演されています。
今田 複雑な社会問題を取り入れた物語ですが、私は最後のデリヘルのオーナーとの絡みのシーンが好きでした。あの作品の中で唯一明るい作用をしている場面のような気がして。セックスには老いも若きも社会的立場も関係なく誰もが同じことするし滑稽な一面もありますよね。
蛯谷 音楽もあそこだけ気が抜ける感じですよね(笑)。
ドーナッツ 最後のシーンは、白石組常連の音尾琢真さんが、かわいらしくて良いですね(笑)。
蛯谷 「とろサーモン」の村田秀亮さんをお笑い好きの佐藤さんがどう見ていたのか気になりました(笑)。
佐藤 「村田さん出てる!」からの「ラブシーンしてる!」っていう衝撃と、昔から知っている親戚が演技しているみたいな妙な恥ずかしさがありました(笑)。背も高いし演技も意外にうまいという……。
蛯谷 村田さんのラブシーン、なんかおおっって思いましたよね(笑)。優しいクズ男な感じ、似合うなと思ってしまいました(笑)。
■バラエティ豊かなロマンポルノ。次は何を見る?
今田 セックスって、子どもを作るためや愛の証明など神聖かつ大事に捉えたり、一方でわいせつやタブーとして隠しておきたいものとされるのが面白いです。もちろん単に生理的欲求と考える人もいるだろうし。合意なく一方から搾取するのはNGですが、人間同士のコミュニケーションの一つとして、恋愛をはじめ社会派、コメディまで、いろんなドラマが生みだせるんだなあと、ロマンポルノを見て感じました。
みなさんは今回「牝猫」2作のほか、ロマンポルノ映画祭のラインナップで何を見てみたいですか?
佐藤 私は「牝猫たちの夜」の作風が好みだったので、田中登監督の「(秘)色情めす市場」、あとはタイトル&ビジュアル(なぜ後ろに炎)が気になり過ぎる「スケバン株式会社 やっちゃえ!お嬢さん」を見てみたいです!
ドーナッツ 私も「スケバン株式会社 やっちゃえ!お嬢さん」が気になりますね。何か後ろで爆発していて、写真が良過ぎます(笑)。あとは、「高校エロトピア 赤い制服」。「AKIRA」の大友克洋さん原作なのが気になるのと、映画製作ものということで、コミカルながらも熱いお話になっていそうです。
蛯谷 私は二村ヒトシさんのコラムで興味を持った「黒薔薇昇天」、出演者に知っている名優の方々のお名前が並んでいるので「ダブルベッド」を見たいですね。
あと、繰り返しになりますが、やはり「牝猫たちの夜」の田中監督の「(秘)色情めす市場」が衝撃で。一度見たときはストーリーが衝撃すぎて追いつけなかったのですが、先日YouTubeで実施した同時再生鑑賞会で当時サード助監督をされていた小西均さんや二村ヒトシさん、日活の高木さんと一緒に拝見したら、色々と作品が深堀りできて本当に楽しかったです。よかったら、撮影裏話や二村さんの鋭い考察なども聞けるので、聞きながら一緒に見てみてください!