山村正夫 : ウィキペディア(Wikipedia)

は日本のミステリー作家。

代表作に『湯殿山麓呪い村』など。日本推理作家協会理事長、日本ペンクラブ理事などを歴任。

推理小説の研究にも熱心でミステリーの古典をトリック中心に分類して一般向けクイズ形式とした『トリック・ゲーム』などの著作もある。

経歴

大阪府生まれ。名古屋市出身。

名古屋市立東白壁尋常小学校入学と同時に、毎日作文を一篇書く英才教育を母親から受けノート10冊くらいになる。2年の時、父親のNHK職員の仕事のため東京へ転居する。大井第一小学校で作文が高い評価を受け、少年倶楽部懸賞に応募し何回か入選する。東京都立多摩中学校へ入学する。

1944年春、高知県高岡郡新居村へ軍事疎開し、高知県立海南中学校へ転校する。中学2年の時、猛暑での過酷な軍事教練で体を壊し、1年間休学する。この間、友人となった家の、世界文学全集、大衆文学全集、江戸川乱歩全集、探偵小説全集などを読みふける。この頃、習作の怪奇幻想的な小説小編を書きつづり、冒険小説『骸骨島』の原稿用紙をまとめた冊子を作る。

敗戦後に、休学を特例取消しで東京へ戻り復学する。東京都の居住制限により、愛知県名古屋市へ移転し、愛知県立第一中学校に転校し、友人と同人誌「玩具」を発行する。新制高校に変更の愛知県立旭丘高校を卒業。名古屋外語専門学校英語科(現南山大学)を卒業する。

専門学校在学中の17歳で執筆した『二重密室の謎』が、翌1949年、推理小説誌「宝石」に掲載されデビュー。その一方で演劇部長となり、学生演劇にものめりこむ。卒業後の1952年に上京して、高木彬光のアシスタントと文京出版の月刊少年雑誌「譚海」「探偵王」などに短編を書く当時はクラブ雑誌と呼ばれた大衆小説誌に探偵小説は1、2話戦前からの大家が書く程度で、戦後派作家は主に少年読物を書いていた。『わが懐旧のイタ・セクスアリス 小説作法・小説教室』山村正夫 P.56 。一方で劇団文学座舞台技術研究生となる。この頃、探偵作家クラブに20代のただ一人の会員となり、会長の江戸川乱歩に近侍する。

1953年、作家の丹羽文雄に師事し、純文学の勉強をする。文学座演出助手になるが、1954年退座する。文京出版が倒産して生活資金のため、1957年から1962年まで内外タイムス社に記者として勤務し、都内の警察回りを経て、警視庁記者クラブ詰めで捜査第1課と捜査第3課を事件記者として担当し、待機の合間に執筆する1955年ごろから中間小説誌に代替わりし、やがて推理小説が多く載せられるようになった『わが懐旧のイタ・セクスアリス 小説作法・小説教室』山村正夫 P.127-128。その後は専業作家として伝奇ミステリー小説中心に執筆し、新人作家を育て、51年間長く作家として活動する。(以上『わが懐旧のイタ・セクスアリス 小説作法・小説教室』山村正夫 P.23-139 1998年11月 ケイエスエス)

若くしてデビューし、多くの作家と交流をもったため、回顧録「推理文壇戦後史」全4巻は、推理小説の歴史についての貴重な資料となっている。

特技は将棋で四段の腕前だった。

1999年、多臓器不全により死去。享年68。

小説教室

カルチャーセンターなどでの小説教室の指導者として多数の人材を輩出したことでも、文学史にその名を留めている。

1968年または1969年に青山学院大学推理小説研究会の顧問格を務め、菊地秀行、風見潤、竹河聖、津原泰水らを指導。後に1962年または1963年より「講談社フェーマススクール・エンタテイメント小説作法教室」に委嘱を受け主任講師を務め、南原幹雄多岐川恭らの講師とともに、宮部みゆき新津きよみ、羽太雄平らを指導。

その休校後に1989年「小説家入門 山村教室」を主宰し、篠田節子、鈴木輝一郎(以上”フェーマス”から継続)、矢口敦子、室井佑月、久保田滋、牧南恭子、上田秀人、海月ルイなどを輩出し、1999年逝去後に「山村正夫記念小説講座」へ継承された。『わが懐旧のイタ・セクスアリス 小説作法・小説教室』山村正夫 P.166・159-161・211 1998年11月 ケイエスエス「山村正夫記念小説講座の歴史と趣旨」2013年4月20日閲覧

受賞

  • 1977年 日本推理作家協会賞 『わが懐旧的探偵作家論』

著書

  • 『曲り角の眼』(同光社出版) 1959
  • 『拳銃の歌』(光風社) 1961
  • 『刑事拳銃38』(光風社) 1961、のち春陽文庫
  • 『歪んだ太陽』(光風社) 1962、のち春陽文庫
  • 『奇形の鏡』(青樹社) 1963
  • 『怪人くらやみ殿下』(朝日ソノラマ) 1969、のち文庫
  • 『まぼろしの魔境ムー』(朝日ソノラマ) 1970、のち文庫
  • 『ボウリング殺人事件』(サンケイノベルス) 1972
  • 『陰画のアルバム』(産報ノベルス) 1973、のち徳間文庫
  • 『ぼくらの探偵・トリック教室』(日本文芸社、すぐに役にたつ少年百科シリーズ) 1973
  • 『裂けた背景』(双葉ノベルス) 1975、のち春陽文庫、講談社文庫
  • 『球型の殺意』(角川文庫) 1975
  • 『わが懐旧的探偵作家論』(幻影城、幻影城評論研究叢書) 1976、のち双葉文庫
  • 『名探偵紳士録』(ごま書房、ゴマブックス) 1977.3
  • 『SOS東京』(インタナル出版部) 1977.2
  • 『断頭台 異常残酷ミステリー』(カイガイ出版部、カイガイ・ノベルス) 1977.7、のち角川文庫
    • 『断頭台 / 疫病』(日下三蔵編、竹書房文庫) 2020.7 - 上掲の角川文庫版を元に短編を追加した増補版
  • 『振飛車殺人事件』(立風書房) 1977.2、のち徳間文庫
  • 『落日の墓標』(春陽文庫) 1977.3
  • 『華麗なる戯れ』(春陽文庫) 1978.6
  • 『遥かなる死の匂い 無頼先生犯罪カルテ 2』(春陽文庫) 1978.10
  • 湯殿山麓呪い村』(角川書店) 1980.9、のち文庫
  • 『悪人狩り』(春陽文庫) 1980.8
  • 『墓場に国境はない』(春陽文庫) 1982.6
  • 『陸奥こけし殺人事件』(講談社ノベルス) 1982.11、のち文庫
  • 『赤い呪いの鎮魂花』(角川ノベルズ) 1983.7、のち文庫
  • 『魔性の猫』(群雄社出版) 1983.7、のち角川文庫
  • 『本州縦断殺人旅行』(双葉ノベルス) 1984.6、のち文庫
  • 『危険な疑惑』(光風社ノベルス) 1984.9、のち改題『三食昼寝死体つき』(祥伝社、ノン・ポシェット)
  • 『大道将棋殺人事件』(双葉ノベルス) 1985.9
  • 『吸血鬼は眠らない』(中央公論社、C novels) 1985.12、のち文庫
  • 『殺人レッスン休講中 キャンパス・ギャル探偵ノート』(実業之日本社、Joy novels) 1985.3、のち光文社文庫
  • 『死体化粧人 疑惑の遺体メモ』(講談社ノベルス) 1985.5、のち文庫
  • 『セクシー・ギャル殺人事件』(大谷羊太郎共著、サンケイノベルス 犯人当てミステリー) 1985.7
  • 『死人島の呪い雛』(角川ノベルズ) 1985.7、のち文庫
  • 『悪夢の寄木細工』(光風社ノベルス) 1985.11
  • 『怨霊参り』(角川文庫) 1985.10
  • 『怪奇標本室』(双葉文庫) 1986.4
  • 『殺意の記念碑』(有楽出版社) 1986.10、のち改題『悪い虫』(祥伝社、ノン・ポシェット)
  • 『恐怖の葬列』(光風社ノベルス) 1987.2、のち角川文庫
  • 『十和田殺人湖畔』(光文社、カッパノベルス) 1987.7、のち文庫
  • 『死人に口なし女に目あり OL探偵ハッスル事件メモ』(双葉ノベルス) 1987.9、のち文庫
  • 『鬼ガ島地獄絵殺人』(角川文庫) 1987.12
  • 『災厄への招待』(光風社ノベルス) 1987.9、のち角川文庫
  • 『奥能登呪い絵馬』(角川文庫) 1988.11
  • 『ミステリー同好会殺人事件』(青樹社、Big books) 1988.7
  • 『死の花は島に散る』(中央公論社、C novels) 1988.3
  • 『死神の女』(ケイブンシャ文庫) 1988.6
  • 『平家谷殺人行』(実業之日本社、Joy novels) 1988.7、のち改題『悪霊七大名所の殺人』(祥伝社、ノン・ポシェット)
  • 『空白の断層』(青樹社、Big books) 1989.6
  • 『卑弥呼暗殺』(ケイブンシャ文庫) 1989.6
  • 『幻夢展示館 山村正夫自選戦慄ミステリー集 1』(新芸術社) 1989.5
  • 『異端の神話 山村正夫自選戦慄ミステリー集 2』(新芸術社) 1989.5
  • 『死影の祭り』(青樹社、Big books) 1989.5
  • 『妖狐伝説殺人事件』(光文社、カッパ・ノベルス) 1989.11、のち文庫
  • 『霊界予告殺人』(講談社) 1989.12
  • 『転職刑事 S・R・S犯罪レポート』(桃園新書) 1990.5、のち改題『嵌められた死体』(祥伝社、ノン・ポシェット)
  • 『泣きっ面に殺人 変身刑事』(角川ノベルズ) 1990.2、のち改題『変身刑事 2』(桃園文庫)
  • 『怒濤に眠れ』(青樹社、Big books) 1990.2
  • 『死霊谷の呪い館』(双葉ノベルス) 1990.12、のち文庫
  • 『死体の証言 推理作家と法医学者が聞き出す 死者が語る隠されたドラマ 異色対談集』(上野正彦対談、素朴社 ) 1990.12、のち光文社文庫
  • 『阿蘇安徳伝説の殺人 火の里の陵』(中央公論社、C novels) 1990.11
  • 『変身刑事 誘惑ハンター』(角川ノベルズ) 1991.7
  • 『丹後半島鬼駒殺人 酒呑童子伝説の謎』(講談社ノベルス) 1991.7、のち文庫
  • 『東京 - 盛岡 双影殺人』(徳間文庫) 1991.8
  • 『美貌に呪いあれ 楊貴妃渡来伝説殺人事件』(ベストセラーズ) 1991.12
  • 『古代諏訪生贄伝説殺人』(講談社ノベルス) 1992.2、のち改題文庫化『生贄伝説殺人事件』
  • 『転職刑事 S・R・S犯罪レポート パート2』(桃園新書) 1992.11
  • 『花火御輿殺意の焔 フォト探偵奇祭アルバム』(実業之日本社、Joy novels) 1992.7
  • 『加賀友禅愛憎殺人』(トクマ・ノベルズ) 1993.12
  • 『越前一乗谷呪い殺人』(講談社ノベルス) 1993.2
  • 『殺人ウォッチング 離婚夫婦探偵』(桃園新書) 1994.2、のち文庫
  • 『幻の戦艦空母「信濃」沖縄突入』(講談社ノベルス) 1994.3、のち文庫
  • 『恐怖のアルバム』(出版芸術社、ふしぎ文学館) 1994.11
  • 『人魚伝説』(角川ホラー文庫) 1995.8
  • 『密室の罠 離婚夫婦探偵』(桃園新書) 1995.8
  • 『「大和」突入超奇襲作戦 世紀の米旗艦空母ジャック』(トクマ・ノベルズ) 1996.3
  • 『季節はずれの殺人 板前探偵包丁推理』(実業之日本社、Joy novels) 1996.1
  • 『暴走殺人 でんでんむし探偵』(桃園新書) 1996.9
  • 『恐怖の花束』(祥伝社、ノン・ポシェット) 1996.9
  • 『魔女の呪い島殺人』(中央公論社、C novels) 1997.3
  • 『奇妙な棺 でんでんむし探偵 2』(桃園新書) 1998.11
  • 『わが懐旧のイタ・セクスアリス 小説作法・小説教室』(KSS出版) 1998.11

ぼくらの探偵大学

  • 『キミのオツムをテストする ぼくらの探偵大学』(朝日ソノラマ) 1971、のち改題文庫化『読者への挑戦』
  • 『ぼくらの探偵大学クイズ特集 続』(朝日ソノラマ) 1972、のち改題文庫化『あなたが名探偵・殺人トリック!』(にちぶん文庫)
  • 『ぼくらの探偵大学』正・続、3 - 4 (朝日ソノラマ) 1973 - 1974

推理文壇戦後史

  • 『推理文壇戦後史 ミステリーブームの軌跡をたどる』正・続・続々(双葉社) 1973 - 1980、のち文庫
  • 『推理文壇戦後史 ミステリーブームの軌跡をたどる 4』(双葉社) 1989.6

「小泉譲二」シリーズ

  • 『逃げ出した死体』(光文社文庫) 1985.9
  • 『逆立ちした死体』(光文社文庫) 1986.9
  • 『太り過ぎた死体』(光文社文庫) 1987.12
  • 『抱きついた死体』(光文社文庫) 1990.9
  • 『赤ん坊になった死体』(光文社文庫) 1992.9
  • 『夜這いする死体』(光文社文庫) 1994.10

「忍者探偵」シリーズ

  • 『忍者探偵 秘湯へ行く』(祥伝社、ノン・ポシェット) 1987.7
  • 『忍者探偵 女忍と対決』( 祥伝社 1991.7(ノン・ポシェット)
  • 『忍者探偵とインド大魔術団』( 祥伝社 1992.6(ノン・ポシェット)

アンソロジー掲載作品

  • 「吸血蝙蝠」(『血の12幻想』、エニックス) 2000.5、のち講談社文庫 2002.4
  • 「降霊術」(『THE 密室』、有楽出版社) 2014.8、のち実業之日本社文庫 2016.10

翻訳

  • 『黄色いへやの秘密』(ガストン・ルルー、秋田書店、世界の名作推理全集) 1973
  • 『Yの悲劇』(エラリー・クイーン、秋田書店、世界の名作推理全集) 1973
  • 『アクロイド殺害事件』(アガサ・クリスティ、秋田書店、世界の名作推理全集) 1973

脚本

  • 私だけが知っている 1957
  • スーパージェッター 1965 TBS系アニメーション
  • 遊星少年パピイ 1965 フジテレビ系アニメーション。「吉倉正一郎」名義の共同原作者
  • スカイヤーズ5 1966 TBS系アニメーション

映像化作品

映画

注釈

出典

関連項目

  • 日本の小説家一覧
  • 推理作家一覧
  • 怪奇小説作家一覧

外部リンク

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