フジコ・ヘミング : ウィキペディア(Wikipedia)

フジコ・ヘミング(本名:ゲオルギー=ヘミング・イングリッド・フジコ(Georgii-Hemming Ingrid Fuzjko、1931年12月5日 - 2024年4月21日)は、日本とヨーロッパ・アメリカ合衆国で活躍したピアニストである。

父親はスウェーデン人画家・建築家の(1986年死去)。母親は日本人ピアニストの(1903年 - 1993年)。俳優の大月ウルフは弟。歌手の橋本潮は従姪にあたる。

経歴

幼少時代

1931年6月にスウェーデン人画家の父とピアノ留学中の母が結婚。フジコは同年12月5日にヴァイマル共和政下のドイツ、ベルリンで誕生する。スウェーデン国籍(長らく無国籍の状態が続いた)。

生後ほどなく日本への移住のため両親とともに横浜港へ向かう安国丸に乗船し、1932年7月27日に東京に到着した。父は同年11月に東京朝日ギャラリーでレオニード・クロイツァー独奏会のポスターや奥田良三、井口基成ら音楽家の肖像画で個展を開くなど画家として活動していたが、日本に馴染めず家族3人を残し1938年に一人スウェーデンに帰国してしまう。以来、母と弟と共に東京の渋谷区穏田で暮らし、5歳から母:投網子の手ほどきでピアノを始める吉澤ヴィルヘルム『ピアニストガイド』青弓社、印刷所・製本所厚徳所、2006年2月10日、192ページ、ISBN 4-7872-7208-X。

また10歳から、父の友人であり、ドイツで母がピアノを師事したロシア生まれのドイツ系ピアニスト、レオニード・クロイツァーに師事する。以後、東京藝術大学在学時を含め、長年の間クロイツァーの薫陶を受ける。

学生時代

青山学院緑岡尋常小学校(現:青山学院初等部)3年生の時にNHKラジオに生出演 し、天才少女と騒がれる。小学校を卒業。

1945年2月、家族と共に岡山県総社市日羽に疎開するJNN NEWS『NO WAR プロジェクト』フジコ・ヘミングさんが伝えたい「戦争の愚かさ」2023年8月10日 11時41分放送。同年4月、岡山県の高等女学校に入学し、そのまま学徒動員される。

終戦後、青山学院高等女学部(現:青山学院中等部)に転校。青山高女5年修了で、新制:青山学院高等部3年に進級する。高等部在学中、17歳で、デビューコンサートを果たす。高等部を卒業。

東京藝術大学音楽学部在学中の1953年には、新人音楽家の登竜門である第22回NHK毎日コンクール(現日本音楽コンクール)に入選をはたし、翌年には第2位に入賞、さらに文化放送音楽賞など多数の賞を受賞した。藝大卒業後、本格的な音楽活動に入り、日本フィルハーモニー交響楽団など多数のオーケストラと共演。かねてよりピアノ留学を望んでいたが、パスポート申請時に無国籍であったことが発覚する。

国立ベルリン音楽大学へ留学

その後、留学の機会をうかがいつつピアニストとして音楽活動を行っていたが、1961年に、駐日西ドイツ大使の助力により、西ドイツ赤十字社に認定された難民として国立ベルリン音楽大学(現:ベルリン芸術大学)へ留学を果たした。

卒業後、ヨーロッパに残留し、各地で音楽活動を行うも、生活面では母からのわずかな仕送りと奨学金で何とか凌いでいたという、大変な貧困で苦痛な状況が長らく続いた。フジコは「この地球上に私の居場所はどこにもない...天国に行けば私の居場所はきっとある。」と自身に言い聞かせていたと話している。

ヨーロッパでのピアニスト時代

その間、ウィーンでは後見人でもあったパウル・バドゥラ=スコダに師事した。また、作曲家・指揮者のブルーノ・マデルナに才能を認められ、彼のソリストとして契約した。しかし、リサイタル直前に風邪をこじらせ、聴力を失うというアクシデントに見舞われた。貧しさで、真冬の部屋に暖房をつけることができなかったためという。やっとの思いで掴んだ大きなチャンスを逃すという憂き目を見た。

既に16歳の頃、中耳炎の悪化により右耳の聴力を失っていたが、この時に左耳の聴力も失ってしまい、演奏家としてのキャリアを一時中断しなければならなくなった。失意の中、ストックホルムに移住する。耳の治療の傍ら、音楽学校の教師の資格を得て、以後はピアノ教師をしながら欧州各地でコンサート活動を続ける。その後、左耳は40%まで回復した。

日本への帰国後

母の死後、1995年に日本へ帰国し、母校東京藝術大学の旧:奏楽堂などでコンサート活動を行う。

1999年2月11日にNHKのドキュメント番組『ETV特集』「フジコ〜あるピアニストの軌跡〜」が放映され、大きな反響を呼び、フジコブームが起こった。その後、発売されたデビューCD『奇蹟のカンパネラ』は、発売後3ヶ月で30万枚のセールスを記録し、日本のクラシック界では異例の大ヒットとなった。第14回日本ゴールドディスク大賞の「クラシック・アルバム・オブ・ザ・イヤー」他各賞を受賞した。

やがて、1999年10月15日の東京オペラシティコンサートホールでの復活リサイタルを皮切りに、本格的な音楽活動を再開し、国内外で活躍することとなる。2001年6月7日には、ニューヨーク カーネギー・ホールでのリサイタルを披露する。現在、ソロ活動に加え、海外の有名オーケストラ、室内楽奏者との共演と活躍は続く。

晩年

2003年10月17日に、フジテレビ系で波瀾万丈の半生がテレビドラマ化された。スペシャルドラマ『フジ子・ヘミングの軌跡』でフジ子役を菅野美穂が演じて、20.1%の高視聴率を記録した。

2013年に自身のCDレーベル「ダギーレーベル」を発足。アルバム第1作「フジコヘミング スペインカメラータ21オーケストラ」を国内外でリリース。Catalunya(CatMusica/CatalunyaRadio)でリスナーの支持により1位に選ばれた。

毎年、世界各地でコンサートを行っているが、2019年3月8日にはパリの有名コンサートホール「Salle Gaveau」でリサイタルを開く。

2021年12月、ポートレート写真や折々に描いた絵画が元になった郵便切手が発売された。

2023年11月、自宅階段で転倒して脊髄損傷の大怪我を負い、治療とリハビリに努めていたが膵臓がんも発覚した。

死去

2024年4月21日、膵臓がんのため死去。。訃報は5月2日にフジコ・ヘミング財団より発表された。

人物

趣味・特技

絵画、裁縫、書、水泳などで、バレエや映画の鑑賞も好んでいる。絵に関しては画家であった父の影響もあり幼少時から得意としており、現在までに書き溜めた絵は本やCDのジャケットで使われている。個展を開くこともある(2001年2月5日 - 2001年2月24日「幻の素描展」より)。

嗜好

菜食主義者。食物の中で特に好むのはジャガイモであるとされる。

家族

  • 曽祖父は、戦前動物病院の院長だった。
  • 母方の祖父母は、岡山県出身。母は、大阪市中津生まれで東京音楽学校 (旧制)卒業後にベルリンに留学して父と出会う。ピアノ講師をしていた。
  • 猫や犬を愛する。東京都の自宅では複数の保護猫と暮らす。

エピソード

  • 東京育ちであるが、母の影響で言葉の端々に関西弁が出ることがある。
  • クリスチャン。母は仏教徒であったが、幼い頃から母に言われて日曜日に近くのカトリック教会に通う。司祭の歌声に惹かれて受洗。
  • 岡山県総社市へ疎開していた女学生の頃は、ピアノを練習できる環境が整っていなかった。近所の総社市立日美小学校(現:昭和小学校)『山陽新聞』2022年5月21日 朝刊30面「フジコ・ヘミングさん総社でピアノと再会」にはピアノが置いてあったため、小学生が帰った放課後、一人学校に行っては練習を繰り返していた。ピアノは現在も小学校の体育館で使われている。ドキュメンタリー映画製作の一環で、2022年5月20日には77年ぶりに小学校を訪れ演奏会を開いた。
  • 『さんま・玉緒のお年玉あんたの夢をかなえたろかスペシャル』(2020年1月13日放送)で、フジコが弾く『ラ・カンパネラ』に出会った一般男性(徳永義昭)の妹からの「兄の弾くピアノを聴いてほしい」という依頼に応えた。番組をきっかけに、2021年4月16日には北九州で。2022年4月28日には徳永の地元・佐賀県で行われたフジコのコンサートのフロントアクトでも徳永が演奏した。また、その徳永がラ・カンパネラを弾くようになった物語を描いた映画『ら・かんぱねら』が制作され、2024年冬頃に公開が予定されている。
  • 20歳から愛煙家だったが、89歳で禁煙した、

語録

  • 「技術的に私よりうまい人はたくさんいる。でも、私の音は私にしか出せない」
  • 「私はミスタッチが多い。直そうとは思わない。批判する方が愚かしい」
  • 「ぶっ壊れそうな鐘があったっていいじゃない、機械じゃないんだから」(『ラ・カンパネラ』について)
  • 「私の人生にとって一番大切なことは、小さな命に対する愛情や行為を最優先させること。自分より困っている誰かを助けたり、野良一匹でも救うために人は命を授かっているのよ。」
  • 「一つ一つの音に色をつけるように弾いている」
  • 大好きなピアニストに、「サンソン・フランソワ」と答えている。
  • (「あなたにとってピアノとは?」と訊かれて)「猫達を食わせていくための道具ね」
  • 「それでも私は、永遠に、永遠に生きて永遠に、弾くことは出来るわよ」

ディスコグラフィ

アルバム

ビデオ・DVD・Blu-ray

  • Make It Home/テレビアニメ「MONSTER」後期エンディングテーマ

書籍

  • 『フジ子・ヘミング1 奇蹟のカンパネラ』(ショパン、1999年)
  • 『フジ子・ヘミング2 ピアノがあって、猫がいて』 (ショパン、2000年)
  • 『フジ子・ヘミング魂のピアニスト』求龍堂(2000年)のち新潮文庫 
  • 『フジ子・ヘミングピアノのある部屋から』求龍堂(2001年)
  • 『フジ子・ヘミング運命の力』阪急コミュニケーションズ(TBSブリタニカ、2001年)
  • 『フジ子・ヘミングの「魂のことば」』清流出版(2002年)
  • 『紙のピアノの物語』フジ子・ヘミング画 、松永順平原作 講談社(2003年)
  • 『フジ子・ヘミング耳の中の記憶』小学館(2004年)
  • 『Fujiko Hemming Esprit de Paris』主婦と生活社(2005年)
  • 『フジ子・ヘミング 我が心のパリ』阪急コミュニケーションズ(2005年)
  • 『天使への扉』光文社・知恵の森文庫(2005年)
  • 『あなたに届けば to you from Fujiko Hemming』オークラ出版(2005年)
  • 『ほんの少し、勇気をあげる to you from Fujiko Hemming』オークラ出版(2005年)
  • 『イングリット・フジコ・ヘミング私が歩んだ道、パリ』ぴあ(2006年)
  • 『パリ・下北沢猫物語』阪急コミュニケーションズ(2007年)
  • 『フジコ・ヘミング画集 青いバラの夢』講談社(2007年)
  • 『パリ音楽散歩』朝日新聞出版(2008年)
  • 『青い玉』<フランス語対訳つき>フジコ・ヘミング絵 沓沢小波 文 文化出版局(2009年)
  • 『希望の力 くじけない、あきらめない心』PHP研究所(2010年)
  • 『フジコ・ヘミング運命の言葉』朝日文庫(2012年)
  • 『たどりつく力』 幻冬舎 (2016年)
  • 『青い玉』<英文対訳つき特別版>フジコ・ヘミング絵 沓沢小波 文 文化出版局(2017年)
  • 『フジコ・ヘミング14歳の夏休み絵日記』暮しの手帖社(2018年)
  • 『くよくよしない力』フジコ・ヘミング 著 秀和システム(2018年)
  • 『奇跡のピアニスト 人生哲学 やがて鐘は鳴る』フジコ・ヘミング 著 双葉社(2020年)
  • 『COLORS 音に色をつけるように弾く』フジコ・ヘミング 著 ビジネス社(2021年)
  • 『フジコ・ヘミング 永遠の今』フジコ・ヘミング 著 CCCメディアハウス(2022年)
  • 『ねことワルツを』フジコ・ヘミング 絵 石津 ちひろ 文 福音館書店(2022年)
  • 『フジコヘミング絵画集』フジコ・ヘミング著 ConcertDoors(2023年)

テレビ番組出演

  • ETV特集『フジコ〜あるピアニストの軌跡〜』(1999年2月11日/NHK )
  • スペシャルドラマ『フジ子・ヘミングの軌跡』(2003年10月17日/フジテレビ)フジコ役 菅野美穂
  • 歌うコンセルジュ〜あなたに番組案内「わんにゃん茶館(カフェ)/街道てくてく旅・熊野古道」(2010年6月17日/NHK)
  • 中居正広の金曜日のスマたちへ『波乱万丈スペシャル 奇跡のピアニスト フジコ・ヘミング』(2010年10月1日/TBS)
  • モーニングバード・Gウーマン「遅咲きの天才ピアニスト〜 “魂の演奏”と壮絶人生」(2013年3月/テレビ朝日)
  • しゃべくり007×人生が変わる1分間の深イイ話 話題の人気者合体SP(2016年5月30日/日本テレビ)
  • あの日 あのとき あの番組 ~NHKアーカイブス~『奇跡のピアニスト フジコ・ヘミング ~魂の旋律を奏でて』(2018年11月11日/NHK )
  • 関口宏の人生の詩Ⅱ(2018年12月15日/BS-TBS )
  • チャリティーコンサート「いと小さきいのちのために 〜WOWOW Special Version」(2019年6月/WOWOW)
  • さんま・玉緒のお年玉あんたの夢をかなえたろかスペシャル2020(2020年1月13日/TBS)
  • ファミリーヒストリー『フジコ・ヘミング~母の執念 魂のピアニスト誕生』(2020年2月24日/NHK )
  • グレーテルのかまど『フジコ・ヘミングのカルトッフェルプッファー』(2020年3月30日/NHK)
  • 無観客コンサート『フジコ・ヘミング 教会ソロ演奏 2020 ~くすしき調べ、とこしえなる響き~』(2020年9月27日/WOWOW)
  • おはよう日本 (NHK)複数回出演
  • 『徹子の部屋』、『徹子の部屋コンサート』(テレビ朝日)複数回出演
  • 『ショパンの面影を探して 〜スペイン・マヨルカ島への旅〜』(2022年12月28日、NHK-BSP)
  • NHKスペシャル『魂のピアニスト、逝く 〜フジコ・ヘミング その壮絶な人生』(2024年5月26日/NHK)

映画出演

  • 劇場映画『ざわざわ下北沢』(2000年/監督:市川準/配給:シネマ下北沢) - 本人役  ※第10回日本映画批評家大賞 作品賞
  • 劇場映画『フジコ・ヘミングの時間』(2018年/監督:小松莊一良/配給:日活)主演:フジコ・ヘミング、大月ウルフ ※(2018)ぴあ映画初日満足度ランキング 第1位 (2019)第22回上海国際映画祭(SIFF) パノラマ部門 正式招待出品 (2020)トロント日本映画際(TJFF)正式招待作品
  • 劇場映画『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』(2024年/監督:小松莊一良/配給:東映ビデオ)主演:フジコ・ヘミング

フジコ・ヘミングを演じた女優

  • 菅野美穂:『フジ子・ヘミングの軌跡』(2003年10月17日フジテレビ)

受賞歴

注釈

出典

関連項目

  • 美輪明宏 (日本のシャンソン歌手、俳優、演出家)
  • ペギー葉山 - 青山学院の後輩。学生時代に音楽室でのフジ子のピアノ演奏を見に行ったり、後年、その演奏会を実際に鑑賞しに行ったりして親交を交わしている。
  • ジュリエット・グレコ - フジコの好きだったシャンソン歌手。飛行機で偶然隣の席になったことがある『永遠の今』89頁。
  • 原田芳雄 - 「フジコさん、煙草やめたらダメだよ。かっこいいから」とフジコに言った『永遠の今』127頁。

外部リンク

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