SNSでの性的搾取の実態捉えた「SNS 少女たちの10日間」監督に聞く アクセスしてきたのは「あらゆるタイプの男性」

2021年4月23日 19:30


ビート・クルサーク監督(中央)
ビート・クルサーク監督(中央)

成人した3人の女優が未成年という設定のもとSNSへ登録すると、何が起こるかを検証したチェコのドキュメンタリー「SNS 少女たちの10日間」が公開された。どんな人でもアクセス可能なオンライン上の性的搾取のおぞましい実態に、「胸糞悪い」「子供を守る為に見ておくべき」など、日本の観客からも多くの感想、意見が上がっている。監督はバーラ・ハルポバービート・クルサークの男女二人体制で、精神科医、性科学者、弁護士や警備員など専門家も招へいし、実験に参加した女優たちのケアを行いながら、撮影された。オンラインインタビューに応じたクルサーク監督に話を聞いた。

――本国チェコでも大きな反響を呼んだと聞いています。

個人から公の機関まで、あらゆる反響がありました。自分で言うのもおこがましいですが、ドキュメンタリーを超えて、社会現象になったのです。この映画を見たチェコの行政機関3つから連絡があり、(日本でいうところの)文部省では小学校のカリキュラムを変更し、性教育を小学校3年生から取り入れることとし、オンライン環境でどのように扱うかも含めるそうです。そして、この映画のおかげで、警察が52人の男性と1人の女性を捜索し、8人は裁判にかけられ判決が出ています。メディアもこぞって取り上げたので、性的虐待への問題意識は高まったと言えるでしょう。また、一般の方からも、我が子が同じような状況に置かれている、子供が風呂場で何者かと電話をしている……などの相談を受けます。その際は、我々が適切な機関に案内しています。

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――性的虐待を防止するために、どのような具体策を取るべきだと感じましたか?

例えば地下鉄でスリに遭うのは避けられないこともありますが、リュックのファスナーを開けたまま乗ることは防げます。ですから、ネット上の悪はなくなることはないと思いますが、被害を受けないために、教育と家庭内での信頼関係を高めることが大事だと思います。専門家曰く、思春期の子供たちは、こういった環境に入るとプレッシャーにおびえてしまうそう。そして、こういったことが露見したときに、その親はもっとおびえるのです。ですから、どんなことがあっても相談できるよう、親子の信頼関係を築くことが重要です。去年、チェコではネット上のトラブルで14人のティーンエイジャーが自殺しています。こういうことを防ぐためにも家族の信頼関係が必要です。

――撮影した映像素材は、どのような基準で選ばれたのでしょうか?

390時間にわたる素材がありました。その中で、いくつかの男性たちのパターンが見えてきたのです。ですので、新たな手口、それぞれ異なった精神の動きを見せた人を選びました。また、撮影前に、ある程度のストーリーラインを考えていましたし、若く、かわいらしい顔立ちをしたゲイの助監督にアカウントを作ってもらい、10代の女の子たちとやりとりさせました。実際私たちが撮影したのは成人の女優ですが、彼が話したのは本物のティーンエイジャー。彼は女の子たちから、大人の男性とのやりとりでどういったことがあったか、話を聞き出しました。それが、我々がやったことの内容と合致していたので、(成人女性たちを使って撮影したことも)間違っていなかったと再確認できました。

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――女優が男性を挑発するような態度も感じられました。これは意図的にですか?

事前に、「挑発しない」「自分で連絡しない」というルールを決めていました。しかし、同席した性科学者が、12歳くらいの女の子はそれほどイノセントではない、という意見を出したのです。しかも、3人の女優の演技や動作は12歳ではなく、9歳程度だと。既に、12歳の女の子はペニスやオーガズムがどういうものか知っている子も多いのです。ですから、そこは、自然に対応した結果として、挑発的に見えるかもしれません。実際、その年齢だと男の子のほうが幼く、女の子の方が早熟です。大人の男性にきれいだと言われたら、媚びるような反応をしてしまうのではないでしょうか。

――3人の女優が12歳ではないと疑った男性はいましたか? また、出演女優のケアはどのようにされましたか?

実際の12歳から14歳で、ネットに顔を出すような子たちは、ばっちりメイクをして実年齢より年上に見えるほどです。女優3人は、スタイリングと演出によって12歳に見え、疑われてはいなかったと思います。部屋のレイアウトも徹底して、小学校の教科書などを置いたり、ディテールまで気を配りました。私は写真家でグラフィックデザイナーでもあるので、女の子たちのプロフィールを半年前くらいから作成し、12歳の女の子がどんな音楽を聞くのか、チェコ語の文法の間違いや、はやりの言葉も徹底に追求しました。そんな準備を経て、彼女たちは400~500のビデオチャットを行いました。そして、2458回コンタクトを取ろうとした人がいた。その中で3~40人は女性で、同性愛者もいました。

ケアについては、撮影前にカメラなしでリハをしました。もちろん、地獄的な状況になったので、降りたいなら降りてほしいと、彼女たちの判断に任せました。撮影が始まってからは、専門家のセラピーをいつでも受けられるようにしました。当初、彼女たちは必要ないと言いいましたが、途中で利用するようになりました。それは、不眠や恐怖感などのPTSDではなく、なぜ男性たちはこういった行動をとるのか、それを理解したいという理由でした。

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――未成年への性的搾取は犯罪です。一方でこういった卑劣なやり方でしか女性とコミュニケーションをとれない彼らが哀れにも見えました。監督は同じ男性としてどう思いますか?

このチャットにアクセスしてきたのは、みじめで不幸な境遇にいる人だけではなく、あらゆるタイプの男性でした。結婚して家庭を持っていたり、医学生だったり、億万長者のような金持ちだったり、こんなところにアクセスしなくても、恋人がすぐ見つかりそうなハンサムな若者もいます。私は、同じ男性として、とても恥ずかしく思います。映画館でこの作品を見た知人からは、「見終わってトイレに行って、自分の性器を見てドキッとした。恐ろしくなった」と言われました。正に私も同じ気持ちです。

また、私は、セックスの捉え方で言いたいことがあります。性的な行為はメカニックなものではないのです。金銭や家事労働と引き換えになるようなものではなく、お互いの感情を第一にすべきものだと思うのです。

――日本には目は口ほどに物を言うということわざがあります。モザイクでもちろん個人は特定できませんが、チャットの男性の目と口の部分だけ見えるようにしている理由を教えてください。

おっしゃる通り、敢えて男たちの目と口を見せたのです。それは、彼らの精神状態を表す部分ですから。しかし、この画像処理には膨大な時間がかかりました。4カ月もの間、8人がかりでアニメーションと同じように毎秒の映像を手作業で処理したのです。

SNS 少女たちの10日間」は、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

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