日本統治時代の台湾の知られざるシュルレアリスム詩人団体を発見「日曜日の散歩者」監督に聞く
2017年8月18日 15:00
[映画.com ニュース] 1930年代に日本統治下の台湾で誕生したシュルレアリスム詩人団体にスポットを当てたドキュメンタリー「日曜日の散歩者 わすれられた台湾詩人たち」が、8月19日に封切られる。昨年、台湾のアカデミー賞に相当する金馬奨で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した作品だ。ホアン・ヤーリー監督に話を聞いた。
1930年代の台南で、日本語教育を受けたエリート青年たちが、日本語による詩を創作し、新しい台湾文学の創造を試みるために設立した「風車詩社」。若きシュルレアリストたちが時代のうねりに巻き込まれていく様を追う。
ホアン監督が集めた映像資料や、リサーチを基にした再現ドラマから、若き文学青年たちが、ヨーロッパ発祥のダダやシュルレアリスム、そして日本の前衛文学に影響を受けていたことがわかる。本作は日本の文学界においても重要な映像資料になる作品といえるだろう。
「日本統治下の台湾の芸術、文学についての資料は非常に少なく、左翼的な作家がいたとわずか数行で記述されている程度です。しかし、実際は多くの作家、芸術家がおり、今から80年近く前に風車詩社が存在したと、ある学者が1970年代の終わりに論文を発表しました。それから30年、私が偶然にその存在を知ったのです。日本統治下の台湾の文学者たちの境遇は語られていません。語られても、それが親日なのか、抗日なのかそういった話題で終わってしまうのです」
「恥ずかしながら私自身も自分が育った台湾で、日本統治の時代にどんな文学や芸術があったのか全く知らず、もちろん風車詩社についても知りませんでした。この映画が台湾で公開されてまもなく1年になりますが、芸術、文学の歴史上でこういった出来事があったことを知らない人々がほとんどでした」
膨大な資料を集め、リサーチから製作までおよそ3年の時間を費やした。資料価値の高い歴史的な映像のほか、コラージュやドラマなど実験精神に溢れたオリジナリティある表現も見どころだ。引用された詩や絵画、映像のチョイスの基準をこう説明する。「まず、全体の映像と関連性のある物を大量に集め、それから細部に渡ってカットとカット、音声の結びつきを考慮しながら選びました。観客が共感できるかどうか考えながら、自分のロジックと感性、時に理性で選びました」
ホアン監督自身も風車詩社の青年たちと同様フランス文学に傾倒し、プルーストを愛読している。「時間をかけてずいぶんと読みました。風車詩社の詩人たちを調べていくと、プルーストとも関連性があるようで、うれしかったですね。偉大な作家の存在で、80年前の風車詩社のメンバーと、時間的には遠く離れているけれど心が近づいた気がしました。西洋から入った文化が日本に伝わり、そして台湾に入ってきた。文学は国や言葉で分割されるものではないと思います。人間の心と心の交流は国を超えて行われるものですから」
風車詩社が活動した古都、台南という街は作家たちに何かしらの影響を与えたのだろうか。「風車詩社の詩の中で、台南という地域と関連性があるような作品は見つかっていません。むしろ、彼らは台南にいつも不満を持っていて、台南は文化芸術を育む環境が遅れており、議論もないと感じていた。彼らは、当時のフランスの文化、とりわけジャン・コクトーに傾倒しており、フランスからもたらされた精神をすごく斬新に感じていたのでは。創造性に満ち、常に時代の先端を走り、時代を総合するようなものが文学だと。ですから、彼らは台南はもちろん、台北にも満足していなかったと思う。それは彼らが日本に留学し、東京にもいたからです。当時の彼らが東京で見たものはとても刺激的だったので台湾に物足りなさを感じた。台南は静かで、東西の文化が融合した街。彼らは東京型のシュルレアリスムではなく、この古い町を何か新しい目線で、創作できないかと模索したのではないでしょうか」
「日曜日の散歩者 わすれられた台湾詩人たち」は、8月19日からシアター・イメージフォーラム他全国順次公開。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。