「精神の死生」大いなる不在 にあさんの映画レビュー(感想・評価)
精神の死生
嗚咽が止まらないほど泣いた
観賞後も涙が止まらず延々泣いた(配信で観てよかった)
何か作品でこれほど泣いたのははじめてだと思う
人を亡くしたときのような、
津波に飲まれる人や街に触れたときのような
心が切られるような痛みを伴う
とてつもない感情に襲われて止めどなく涙が溢れた
記憶を失うなかで一瞬だけ戻ってきた自分
戻れたからこそ分かる、愛しい人への愛
戻れたからこそ取れる、理性を保った行動
これが最後の別れと分かりながら、
愛する人を手離し自ら保護される終盤のシーンはもう
何度見てもどうしようもなく心に来るものがある
コンロで火の元を確認する些細なシーンもまた。
すべてを失いかけた意識の中で、最後にほんの束の間だけすべてを理解し、愛する人のために最期の選択をする。それは愛する人のためでもあるし、自身の信念に従うことでもあり、人が人として自分で考え行動を起こせることの尊さや、人が人たるべきものとして持つ精神の強さ、理性を保って生きてきた人の最後の砦など、人の生き様の鮮烈さを描いているようでもあったように思う。などと無理に言語化するとなんだかこれも嘘くさいような気もするけれど。
父と息子という見方では、
介護施設で許しを乞うたりベルトを交換するシーン、
敬語がタメ口になっていく心の距離が近づくようで、
親と子という関係が、立場が、逆転するような
そうした描写もまた。心に来るものがあった。
ただ父親への情が湧いた上で延命治療を希望するとか
突然の非道さには驚き慄いてしまった
あれは純粋に製作者側の延命治療に対する
理解が浅いゆえなのか?
冒頭で映し出された「精神の死生」というメモ、
父の変わりゆく姿を見て延命治療を選べることが
本当に信じられなかった。
そして舞台と舞台調な手紙の朗読は
映像作品においては結構白けるというか、
逆効果だったのではと思った。
介護施設側の父の大事が詰まった鞄のぞんざいな扱い、
延命治療に対する軽い受け答えなどは
ある意味現実的に見える描写なのかもしれないけど
実態はもっと寄り添った介護をしてくれている
施設が多いようにも思えた。
認知症なのにあれだけ理性が働いてるとか
息子のことはちゃんと分かるとか、
そもそも認知症の旦那さんを病院に連れて行かない、
認知症について家族に一切相談報告しない、
奥さん側親族は行方不明になってるのに
警察に届け出てる様子もないなど、
都合の良すぎる作りではあったけれど
私は好きな作品だった。
