「杉田協士監督作で反復される“うた”。多摩映画としての一面にもご注目」彼方のうた 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
杉田協士監督作で反復される“うた”。多摩映画としての一面にもご注目
杉田協士監督の長編映画は「ひとつの歌」「ひかりの歌」「春原さんのうた」そして今作「彼方のうた」と、常に“うた”がタイトルに含まれている。だがそれだけでなく、第1作では歌人・枡野浩一を重要な役で出演させ、2作目では枡野と共催した短歌コンテストで選んだ4首に基づき映画化、3作目は歌人・東直子の短歌を原作とするなど、短歌という抽象度の高い文学表現をいかに映画作りに転用できるかという挑戦を続けてきたようにも見受けられる。広大な世界と膨大な時間からひとときの状況と情景を切り取り、つないで、余白は受け手の感性と想像に委ねるというか。小説や漫画のようなストーリーテリングの手法とは目指す方向が違うので、ストーリーがわかりやすく具体的に語られる映画に慣れているとあるいはとっつきにくく感じるかもしれない。
登場人物らがすべてを把握して行動しているわけではないように、観る側もわからない部分はわからないままで、映画の流れに身をゆだねてこの世界の不確かさを味わうのもひとつの向き合い方だと思う。
なお東京都多摩市出身の杉田監督は、前作に続き今作でも同市関戸にあるカフェ「キノコヤ」をはじめ聖蹟桜ヶ丘駅近辺でロケを行っている。ちなみに3月2日公開の清原惟監督作「すべての夜を思いだす」は同じ市内でも多摩ニュータウンを舞台にしているのだが、撮影の飯岡幸子、音響の黄永昌など杉田組の常連が清原監督作にも参加している点が興味深い。多摩映画の輪が広がっているようでもあり、地元の人間として単純に嬉しい。
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