あの歌を憶えているのレビュー・感想・評価
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記憶が邪魔になること
家族が「あなたはこうすべき(あるべき)だ!」と枠にはめてくること。シルヴィアとソール、彼らを取り囲む周囲(家族)の環境など一見鏡写しのようでもある2人が互いに補完し合う、傷を知る者同士惹かれ合う魂。定点撮影による長回しが演者の感情をつなぎ、気まずさや流れる空気・雰囲気など観る者にリアルな感覚を呼び起こす。それをこれほどまでに力強く可能にしているのは、ジェシカ・チャステインとピーター・サースガードの素晴らしい演技(というより時に佇まいそのもの)と二人の間で確かに起こり、作中積み上げられていく科学反応だ。
2人の出会いのシーン(カット)からすごくいい、あれ天才だろ。シルヴィアの厳重に鍵をかけてセキュリティ対策に余念のない警戒心の強さ。初めてそういうことになるシーンでも抵抗しているようで、観ているこちらが心配になるような緊張感があった。一方で、ソールは外出禁止で1人では外に出歩くことすらできない、鍵をかけられているような状況。
登場人物にとって肝心なことをそうした定点からの長回しでセリフとして言ったかと思えば、描かないことも多分にあって、作品として肝心なところは観客に委ねられる奥行きのある作りもまた唯一無二のフィルモグラフィーをメキシコ=非アメリカから生み出してきたミシェル・フランコ監督らしい。冒頭のAA(アルコール依存症の会)の参加者はエンドロールを見る限り、本当の人々を起用しているようで、そして作中一番のアップ寄りは彼ら(=傷を知る人々)だったのが印象的だった。そこからの本編では常に一定の距離感から被写体(つまり主人公たち)を一貫して捉える。
「やっと見つけた」と言いたくなるような感情のひだ、琴線に触れて静かに沁み入る、味わい深い大人の映画…。最近読んだ本に、作品全体を貫くテーマとしてこんな一節があった ―「傷を負うまで、人は大人になれない」。娘のアナもまた母(の身に降りかかったトラウマ、子供時代に何があったか)を知り、大人になったのかもしれない。
♪A WHITER SHADE OF PALE / プロコル・ハルム
P.S. スペシャルサンクスに『或る終焉』ティム・ロス
ジェシカ・チャステイン
目を惹くピーター・サースガードの存在
アルコール依存症のシルヴィアと若年性認知症を抱えるソールとの恋愛。ソールは勿論の事、シルヴィアにもアルコール依存になったトラウマがあったりと、かなりディープな事情が背景にある。一応はハッピーエンドという形になっているが、各々が抱える問題を完全に解決させず、投げっぱなし状態で幕を閉じてしまう。だから手放しでは喜べない。でも言い換えればそれは、簡単に綺麗事として片づける事が出来ないというアンチテーゼなのかもしれない。
主演よりシブい脇役が多いピーター・サースガードの、文字通り体当たり演技が目を惹く。もっともっと評価されてほしい役者なので、日本でほぼ同時期に公開される主演作『セプテンバー5』も期待したい。
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