「親たちは最低の毒だがきょうだいは温かい」あの歌を憶えている かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
親たちは最低の毒だがきょうだいは温かい
アルコール依存症の自助会に参加していて、娘に対する異常な心配性と過保護、住まいの厳重すぎるセキュリティなど、シルヴィアが病んでいそうなのがありありで、彼女と絶縁状態の訳有りげな母がことあるごとに口汚い言い方で口にする長女シルヴィアの異常性を、やっぱり、と信じそうになったが、そういうことだったのか。この両親の人でなし性に絶句した。
事情があからさまになった時に、オリヴィアの夫がすぐさま毒母・サマンサに「出ていけ」と怒鳴ったところですっとした。
ようやくシルヴィアの訴えが全面的に信じてもらえたのだと思った。
この毒母は、夫が娘にしているおぞましいことより、彼が自分ではなく長女を求めたことが許せないのだろう。だから「事実」と認めない。嫉妬と女としてのプライドからか。執拗に長女を貶め、絶縁状態なのにしつこく近づくチャンスを狙い続けるは、シルヴィアの心のよりどころの孫娘アナを丸め込もうとするは、長女を幸せにさせてたまるかという執念を感じる。
もっとも、普通の会話にもサマンサの言葉の端々には何とも言えない醜さ、いやらしさを感じるし、妹オリヴィアからも心理的に距離を置かれているところから、彼女の人間性は、外ににじみ出てはいる。
シルヴィアがティーンエージャーのころは荒れて、さらにはひどい男どもからの性被害に遭い、そこからのアルコール依存症というのは、なるべくしてなった流れだ。
こんな毒母は、オリヴィアの家から出て行った足で地獄に落ちてしまえと思う。
唾棄すべき父親はとっくに落ちてるけど、彼女を待ってはいないでしょう。この世と同様に毒妻をないがしろにするんでしょう。
穏やかで優しいソールは、過酷なシルヴィアの人生で唯一、温かく安心できる人なのだろう。ソールにしても、シルヴィアに何か感じるものがあって同窓会の帰りについ、ついて行ってしまったのだろう。(ちょっと寝てしまったのでその間について行った理由が語られたかも)相性というのは、その二人の感覚のみで、理屈じゃないし、他人には分からないものなんだと思う。
若年性認知症の中年男性と過去のトラウマから逃れられないメンヘラ気味のシングルマザー、若くもないふたりの今後となると問題山積みで長くは続かないと思われるが、人生は長いようで実は短いかもしれない。ふたりが幸せなら、その瞬間以上に大事なことはないような気がする。
ソールの弟アイザック、シルヴィアの妹オリヴィアと、保護される立場の年少のきょうだいが兄姉の保護者になっているのが面白い。アイザックは口やかましくするがソールが心配でたまらないだけ。オリヴィアは、姉が父の毒牙にかかっていることに気づきながらなにもしなかった自分、姉の犠牲で自分は無事だったことに罪悪感を抱きながらも、母に自分を愛してほしかった気持ちがないまぜになって複雑だが、それ以上に姉を愛している。
弟妹にとっては、ぽんこつだろうが何だろうが今やただひとり幼いころの自分を知っていて思い出を分かち合える、遠慮が不要な親しい肉親だ。
そういう唯一無二感と、年少ゆえの無力感と、兄姉に対する幼いころの畏敬の念をいまだ大事に持っているような二人に見えた。
幼いながらも母の保護者のようなアナが、健気でかわいい。
あの年にしてはできすぎていてかわいそうな気もする。アナの父親のことは誰も何も言わないし、子供に責任はないが、13歳という年齢から、アナ自身何か思うところもあるのではないか。
また、いくら認知症とはいえ、男性一人の家に女性ヘルパー一人を送り込んで一晩面倒見させたらその手のトラブルはありがちだと思う。認知症だけど男性としての体は何ともないし、欲もあるんだから。
登場人物たちが住む家が、どれもいい感じに温かみがあり居心地が良さそう。
この家々の佇まいが、弟妹と兄姉、シルヴィアとアナの母子の関係とシンクロするように感じました。
ソールの好きなプロコル・ハルムの「青い影」が心に残るが、いづれこの曲も忘れてしまうんでしょうか。
かばこさん
〉過去って重要なんですね
ホント、そうかもしれません。ソールの足どりのおぼつかなさ。ふわふわした感じ。過去を失って錨の鎖が切れてしまった船のように漂流している様子。
シルヴィアは逆に、深い沼の泥の底にはまった錨に繋がれて、重たい鎖に縛られている。
丁度よい塩梅の「過去」を持っていないと、我々ってうまく今を幸せに生きていけないのかもしれないなぁ・・
かばこさんにコメントもらって、そんなことを思いました。
おはようございます。
毒を撒き散らす人って、他人からの信頼や親密感を得られないことを自分の人格のせいだとはこれっぽっちも思ってなくて、すべて他人のせいにするからタチが悪い。そのくせ人が寄ってきてくれない寂しさは感じるから、誰かに絡もうとするけど、批判や悪口が先に立ち、負の感情でしか繋がれない。
歳を重ねていくにつれ、そんなふうになってしまう人もいるので、自分も気をつけなきゃ、と思いました。
共感・コメントいつもありがとうございます。
若年性認知症に関しては、渡辺謙さんと樋口可南子さんが主演した「明日の記憶」という、症状の進行に真正面から取り組んだ素晴らしい作品が記憶に残っています。
本人の苦悩や努力そして制御できなくなる感情、周囲の人たちのいたわりが及ばないつらさ等々、思い出されました。