「二人だからこそ前に進んでいける」あの歌を憶えている 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
二人だからこそ前に進んでいける
ミシェル・フランコ作品はいつも説明的なセリフや描写を徹底して廃し、無駄なく研ぎ澄まされた登場人物の動線や顔色などから、置かれた状況や半生を自ずと浮かび上がらせる。本作もその流れは同じ。しかしメキシコ出身の偉才がブルクリンの街角で二人の米国人俳優と共に描く今作は、これまでと何かが違う。身を切るような痛みを内包しながらも、そこにはほんの微かな希望と日のあたる場所が提示されているかのよう。さらに”記憶”という要素を用いることで男女を思いがけない手法で出会わせ、大切な関係性へと導いていく。フランコ作品ならではの傷を持つからこそ、彼らは空いた穴を埋めるために互いを抱きしめ、支え合うのだろう。記憶によって苦しめられてきたシルヴィアはソールといる時間だけは記憶から解き放たれ、毎日が新たな自分であり続けられる。そのかけがえない幸福が切実に胸に迫る。二人を祝福するプロコル・ハルムの名曲の響きも深くて優しい。
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