劇場公開日 2025年2月21日

「◇記憶と愛の変数」あの歌を憶えている 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5◇記憶と愛の変数

2025年2月24日
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鑑賞方法:映画館

 脳の中で記憶をつかさどる領域「海馬」。ここには、記憶の形成に欠かせない、いつ、どこで、何をした、という3大要素をそれぞれ担う脳神経細胞群が存在するようです。「場所細胞」「時間細胞」「イベント細胞」

 なるほど、<記憶> を解析的に座標軸に落とし込む脳科学的アプローチは「記憶-自己存在」という哲学的な問いかけの補助線として有効に感じます。

 忘れてしまいたいのに忘れられない記憶を持つ女と忘れたくないのに忘れていく認知症の男。記憶という自分の存在の根幹に対しての意志、願望の姿が重なり合う時、二人だけの記憶の共有が生まれてくるのです。

 色恋の儚さなんて充分過ぎるぐらい認識しているはずの中年男女二人を結びつける愛の姿。それは偶然に重なり合った心のパズルのピースの一致でしょうか。

 記憶と自己存在の変数は、予測可能な方程式には収まらない偶然性、恣意性の中に無限の可能性を秘めて散らばっているようです。そして、心はその愛の安らぎを察知して寄り添っていくのでした。

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私の右手は左利き