劇場公開日 2025年2月21日

「「青い影」のオルガンの対位法と、記憶をめぐる男女の対比」あの歌を憶えている 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5「青い影」のオルガンの対位法と、記憶をめぐる男女の対比

2025年2月22日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

「青い影」(A Whiter Shade of Pale)といえば若い頃はジョー・コッカーが熱唱するカヴァーが好きだったけれど、久しぶりにYouTubeで聴いたらあの印象的なイントロのフレーズがエレキギターメインで軽くて、今はやはりプロコル・ハルムのオリジナルのハモンドオルガンのほうが神々しくて美しく感じる。バッハの「G線上のアリア」との類似性は昔から指摘されていて、「青い影」のオルガンも左手のベースパートは二拍ずつ長調のスケールを下降、右手の主旋律は八分音符で細かく降りたり昇ったりしつつ8小節のフレーズ全体では音域が上昇する構成になっている。この下降するベースと上昇する主旋律がバッハの対位法っぽく聴こえる理由。

いきなり音楽の話を長々としてしまったけれど、映画を見終わってからふと、過去の記憶に苦しめられている女性と、現在の記憶を失って苦しんでいる男性というのも、実に対比的だなと。この男女の組み合わせはきわめて作為的で、現実にはきっとうまくいかないだろうと思いつつ、大人の寓話として二人の関係の変化を見守り、エンディングのその後に思いを馳せるべきなのかも。

ちなみに日本では映倫区分がGになっているけれど、米国ではR指定だし、十代後半で年齢制限して公開している国も多い。直接的な表現は少ないけれど、アルコール依存症、レイプ、父から娘への性的虐待の話が出てくるので、同じか近い経験で苦しんだ人や共感性の高い人が観ると、精神的にけっこうこたえるのではないか。少なくとも落ち着いた大人の恋愛映画ではないので、そのへんを留意して臨むべきかもしれない。

高森 郁哉