劇場公開日 2025年2月14日

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「生きる糧とは」愛を耕すひと TSさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 生きる糧とは

2025年9月14日
PCから投稿

悲しい

この映画を鑑賞し終わって、「愛を耕すひと」という邦題は、Bastarden(私生児)という原題よりもこの作品が観る者に与える印象を的確に表しているように思った。
ただ、時間が経過するにつれ、「愛」がテーマの映画と単純に捉えてよいものか?と考えるようになった。

18世紀の王権と封建領主の権力が併存する社会。身分差別、女性差別、人種差別が当たり前の時代。その時代、社会に生きる弱き者たち、差別され搾取される側の者たちが、権力側が投げ出した荒れ地の開拓という困難に立ち向かい、権力に一矢報いる。このストーリー自体に、現代に通じるメッセージとカタルシスがある。それがもう一つのテーマだろう。

そして、その過程の中で、愛を知らない、あるいは愛を失った3人に芽生える、新しい愛の形は、驚くほど静かに、すうっと自然に心に染みこんでくる。それは、理不尽な社会環境と過酷な自然環境の下で、凍えた心を温め合って生きるには、必然なものだからだろう。広大で荒涼とした大地、そして3人の生き様に、原始の人間の本能的なものに触れる感じがした。

恐らく鑑賞した誰もが感じるであろう、主演マッツ・ミケルセン(ケーレン)の圧倒的存在感。寡黙な元軍人の心の移ろいを、表情だけで伝えてくる。荘園領主のフレデリックと対峙する場面、若葉に目を細める場面、アンマイを送り出す場面。言葉を発しなくても、感情が伝わってくる。そして、絵になる立ち姿の凜々しさと言ったら!

アン・バーバラを演じたアマンダ・コリンも、表情の変化に乏しいが、内に秘めたる愛と怒りの放出の演技は素晴らしかった。

栄光と引き換えに失った愛に気づいたケーレンが最後にとった行動は、予想外のものだった。海のそばに住みたいと語っていたアン・バーバラ。海の土を求めていたケーレン。
海は2人の希望の象徴。それを感じさせる静かで心に残るラストシーンだった。

TS
かばこさんのコメント
2025年9月14日

孤独だった3人が肩寄せあって暮らす束の間に幸せが、長く続けばいいのにと願わずにはいられませんでした。すべてを捨ててアン・バーバラを救いに行ったケーレンと彼女が、幸せに暮らせるといいですよね。

かばこ
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