「歴史ものだが、今に通じる優れたドラマ」愛を耕すひと abukumさんの映画レビュー(感想・評価)
歴史ものだが、今に通じる優れたドラマ
歴史ものが好きな人も、普段は現代劇しか見ない人も、デンマーク史をよく知らなくても十分に楽しめる高度なドラマ展開。美しい大地の映像と壮大なカメラワーク、キャストは一流、監督はよく知らなかったけれどトップランク。素晴らしい映画でした。
なぜ、主人公のルドヴィ・ケーレンがドイツ兵だったのか。傭兵のような扱いではないので不思議で調べたみたのですが、当時のデンマーク王はドイツ・ホルシュタイン公爵領を保持し、ドイツ領での軍事作戦に参加していたらしいので、実在のケーレンもホルシュタイン連隊で昇進をめざしたようです。
史実に基づくイダ・イェッセンの小説「キャプテンとアン・バーバラ」が映画の原作。当時の世相を反映していますが、フェミニズムとDEIの視点から女性・弱者が重要なキャラクターとして創作され、単なる歴史小説ではないという海外書評欄の評価です。
映画のキーワードとして、「辺境」「差別」「権力」「分断」「家族」「尊厳」「暴力」などが想起されました。今、ウクライナやパレスチナで行われている理不尽な暴力や米国・日本で行われているよそ者いじめ問題に通じていて、他所から来た人も土地の人も、今ここで協力して生きるという課題に、リアリティを感じたドラマでした。
25年間も戦場にいて、人はどんな現実に直面するのか?寡黙で冷徹とも言えるケーレンですが、「家族」を得て徐々に変化していく。その内面を少ないセリフと身体の動き、そして目の表情で伝えるミケルセンの演技は素晴らしい。
さらに、小説タイトルにもなった"アン・バーバラ"の格好良さには惚れ惚れ。また、ロマの子である"アンマイ・ムス"を演じたメリナ・ハグバーグの生き生きとした演技が暗い色調の画面をとびきり明るくしています。彼女が腕を上げて『パンケーキ!』と叫んだシーンはアドリブ(本物のパンケーキが出てきたから)、台本にないセリフでしたが、あまりに素晴らしく美しいと感じて、そのまま映画に使ったという監督ニコライ・アーセルの弁。
蛇足ですが、家族の食事シーンは何かハリウッドの「古い西部劇」を見るような懐かしさもありました。