「デンマークデンマーク版・大草原の小さな家? ではなかった」愛を耕すひと ノンタさんの映画レビュー(感想・評価)
デンマークデンマーク版・大草原の小さな家? ではなかった
デンマークの海沿いの荒地。その美しい風景の中にポツンと建つ「王の家」。家族が(疑似家族なのだが)畑を耕し、少しずつ愛情を育んでいく。まるで『大草原の小さな家』のような開拓物語かと思いきや、もっと複雑で現代にも通じるテーマが見えてきた。
主人公(マッツ・ミケルセン)は25年の軍隊生活を終え、次の人生の目標として開墾を選ぶ。過去に何人も失敗してきた荒地を。そして、成功すれば貴族になれる。
彼は軍隊でも、身分のない者としては最高位まで昇進した意志の強い男であり、目標を決めたら必ず達成するタイプだ。だからこそ、また新たな困難に挑む。
けれど、彼が本当に戦っているのは荒地ではなかった。悪徳封建領主の圧倒的な権力、仕事と家族のバランス、組織作りの難しさ……。開拓は順調に進んでいるように見えても、それだけでは幸せになれない。貴族になれれば自由になれるのか? 成功すれば人生は満たされるのか?
最初は「開拓を成功させて貴族になれば報われる」という話かと思った。でも、残念ながらそうはならない。
目標を達成しても幸せになれないことは往々にしてあるのだ。というか、この主人公は目標を全て達成したけれど、それ以外は空虚な人物でもある。
しかし、ラストの彼の表情には、「目標を達成することだけが人生じゃない」と気づいた人の姿があった。それはまるで、長年「戦う」ことを生きがいにしてきた企業戦士が、ようやく別の価値を見つける瞬間のようだった。
目標達成への努力による自己実現的な価値観の限界、封建社会の理不尽な現代にも通じる権力構造。美しく、見やすい映画だけど、その奥には意外なほど多くのものが詰まっていた。観終わった後も、しばらく考え続けたくなる作品だった。