「庶子と愛」愛を耕すひと マトリョーシカさんの映画レビュー(感想・評価)
庶子と愛
デンマーク語の原題“Bastarden”は庶子という意味。主人公は貴族と使用人のもとに生まれ、父親にも認知されず、多くは語らないが自らの出自を気にしており、貴族の称号を得るために荒地の開拓にすさまじいエネルギーをかけたり、たびたび国王の権威を正統性として強調し、身分という正統性に強いこだわりを見せる。
庶子の平民という軍人としても大尉がやっとで社会から認められにくい主人公と貴族社会からほとんど開拓不能と匙を投げられている過酷な自然環境の荒地、そして上級貴族の嫡子という出自の正統性だけで領地を世襲して暴君として振る舞う主人公の力を削ごうとあらゆる残忍な手を使う領主。これらのコントラストが、過酷な環境で同じように放浪してきた人々と協力して荒地を開拓しようとする主人公たちの物語を際ただせている。
主人公は、身分という社会的正統性によって認められることを行動のエネルギーとしているが、彼は出自から家族との愛情のようなものをおそらく知らないのかもしれない。故に邦題の「愛を耕すひと」というのは、最後まで視聴すると中々気の利いたタイトルだと思った。
ヨーロッパの映画としては、盛り上がる構成のエンタメ色もけっこう強い映画なのだが、ハリウッドや邦画の大作にありがちなセリフで説明してしまうのではなく、微妙な仕草でシナリオが表現されているのは、いい意味でヨーロッパ映画らしいと思った。
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