「期待度◎鑑賞後の満足度◎ 何でも「愛」をつけりゃ良いという邦題の悪しき伝統?実はデンマーク版『修羅雪姫』とでも云いたいアナーキーでハードボイルドな歴史寓話でした。」愛を耕すひと もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
期待度◎鑑賞後の満足度◎ 何でも「愛」をつけりゃ良いという邦題の悪しき伝統?実はデンマーク版『修羅雪姫』とでも云いたいアナーキーでハードボイルドな歴史寓話でした。
①邦題とか、予告編とか、原作ありきとか云った先入観を引き摺って、クライマックス直前までは未開の地の開墾に初めて成功した元軍人の御苦労話かと思いきや、クライマックスからラストに至るツイストの効いた展開で、「こりゃ、“必殺仕事人”か“修羅雪姫”かい」とガラリと鑑賞後の印象が変わる或る意味トリッキーな映画。
②マッツ・ミケルセン(ミッツ・マングローブと間違えちゃう)の、ヴィトルという男の内面・喜怒哀楽・正の感情・負の感情をほぼ表情だけで演じ分けてしまう懐の深さ。
さすがデンマーク映画界の至宝と云われるだけはある役者さんではある。
ただ、彼が主役なのは、殆んどサイコパスの領主シンケルにとうとう殺されそうになるところまで。
③このヴィトルとシンケルという二人のキャラクター。両極端の様でもあり或る点では共通している様でもあり。
シンケルを憎らしく思えば思うほどヴィトルに肩入れする、という作劇上の巧みさはもとより、この二人のキャラクターとその背景を通して当時のデンマーク王国の社会構造や特権階級の傲慢さ・階級意識・差別意識等々が炙り出される。
領主のお手付きで私生児として生まれて幼少期から苦労し比較的身分差別の少ない軍隊で何とか社会の階段を25年かけて登ってきたヴィトル。(封建社会や階級社会における権力者のお手付きの話ってホント世界の何処でも、どの時代でもあるね。)
それだけ爵位を貰い貴族になり、自分の土地を持つ領主になることがヴィトルにとっては執念となっている。
そしてそれが、シンケルからの犯罪レベルの数々の妨害にも耐えて開墾し続ける動力となっている。
④他方、シンケルは領主の正式な跡取りという特権的立場に加えて生来の殆んどサイコパスな性格もあり、封建社会の特権階級の旨味を存分に味わいながら、デンマーク王国中枢から遠い土地であるため政府の目がなかなか届かない地理的優位も利用してやりたい放題。
しかし、このシンケル、口先では虚無主義者めいたことを嘯きながら、自分の特権・所有するものを侵されることを何よりも恐れ、それを守るためには殆んど病的と云える執念を見せる。
貴族・爵位・土地、と共通のものを巡って同じような執念を燃やす二人の男達。手に入れようとする、守ろうとする、と違いは有ってもコインの裏と表の様でもある。
⑤また、あくまで国王のご威光をシンケルの横暴に対する盾にし続けるだけのところが、ヴィトルも結局まだ封建社会の枠内に留まっているという限界を示している。
ジャガイモ栽培に成功(普通の偉人伝であれば此処をクライマックスにするところを通過点にして、更に主人公達をサディスティックスにいたぶる流れからして本作が単なる感動的なサクセスストーリーを目指したものではないのが分かる)したご褒美として国王の思し召しで入植してきたにも関わらず、そのドイツ人入植者達を襲って女子供を殺したシンケル一党。