「デンマーク版プロジェクトXの豊饒な物語」愛を耕すひと 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
デンマーク版プロジェクトXの豊饒な物語
待望のマッツ・ミケルセン主演作品でした。個人的に「アナザーラウンド」以来でしたが、またまた素晴らしい演技でした。
日本での題名は「愛を耕すひと」と上品なものですが、デンマーク語の原題「Bastarden」には、「ろくでなし」や「私生児」「非嫡出子」といった意味があるそうです。ルドヴィ・ケーレン(マッツ・ミケルセン)は貴族の私生児として生まれた設定で、原題はその境遇を端的に表しています。英題は「The Promised Land(約束の地)」で、原題・英題・邦題の異なる視点がユニークながらも、いずれも作品の本質を捉えた好題だと感じました。まあ原題を直訳した邦題にしたら、日本では敬遠されそうですが。
物語は18世紀中頃のデンマーク辺境が舞台。国王の許可を得て、不毛の地を開拓するルドヴィ・ケーレンの姿を描きます。史実を基にした小説の映画化で、開拓の苦難はデンマーク版「プロジェクトX」とも言えるかもしれません。
物語を彩るのは、地元領主デ・シンケル(シモン・ベンネビヤーグ)との対立。不毛の地ながらも国王直轄地であるこの地を横取りしようと画策するデ・シンケルに、ケーレンは敢然と立ち向かいます。ミケルセンの姿は、まるで日本映画の“健さん”的なヒーロー像を彷彿とさせました。
恋愛要素も見どころでした。デ・シンケルのところから逃散してケーレンの下で働くことになった小作人夫婦の妻アン・バーバラ(アマンダ・コリン)は、夫をデ・シンケルに惨殺され、その後もケーレンの下で働くうちに彼と結ばれます。一方、デ・シンケルの許嫁エレル(クリスティン・クヤトゥ・ソープ)もケーレンに惹かれ、複雑な三角関係が物語に人間味を添えました。2人が最初に出会った場面では、女同士のバチバチした緊張感にゾクゾクさせられました。
さらに、タタール人の娘アンマイ・ムス(メリナ・ハグバーグ)の存在も重要。ケーレンの下で働くことになったものの、地元住民の偏見や差別にさらされ、一時はケーレンもやむなく手放してしまうことに。それでも再びケーレンのところに戻り、やがて成長し伴侶を見つけます。この辺りは愛娘を嫁に出す父親像として描かれるケーレンでしたが、この出来事が”土”ではなく”愛”を耕すひとになるきっかけとなりました。
そして一番の山場は、デ・シンケルをアン・バーバラとエレルが連係して討ち取るシーン。観客の憎悪を集めた悪役が成敗される瞬間は実に爽快でした。
そんな訳で、史実を基にした緻密な物語構成や、不毛な大地の風景も味わい深く、何よりマッツ・ミケルセンの演技も素晴らしかった本作の評価は、★4.6とします。