「映画として、日本人として」オッペンハイマー マークロス子さんの映画レビュー(感想・評価)
映画として、日本人として
クリストファーノーランが原爆の作品を作ると聞いて是非みたいなとー。しかし、日本で公開延期になっていたのも知ってたので、日本人としては残念な描写も多いのかと思いながら視聴。
前知識はなかったので、まずキャストがこんなに豪華なのかと、ロバート・ダウニー・Jr、マッド・デイモン、フローレンス・ビュー、エミリー・ブラント、ラミ・マレックetc…
これだけのそうそうたる顔ぶれで日本の映画にありがちなキャストで釣る予告編ではなかったのは、作品性なのか、監督のネームバリューなのか。
ここからは内容の話で、まずはじめに
レビューとしては、一言表すと評価できない、星はつけれない作品であった。作品としてやはり日本人として複雑な気持ち、あと、描写としての味付けの少なさである。
断っておくが、こと戦争に関しては別にアメリカが全部悪いのではないと思ってる。あくまでアメリカサイドからの話であることもわかっていた。
しかし、現実広島に原爆を落とされ、その後に歓喜される描写はやはり胸がえぐられる。あのまま戦い続けていたら双方の被害が、大きくなるからという理由づけもあったが。そのあとの長崎のシーンは二頭目ということもあり流される。サラッーと。
その後で、そこがラストならまだ壮大な演出で後悔の描写などいれてくれればキレイに幕引きだとわかるのだが、あくまで中盤の描写。
後悔や葛藤、多少描かれるものの、アメリカンスナイパーなど戦争作品と、比べると呵責のシーンは少ない。
さらに終盤は、ストローズとの原子力委員会での権力闘争が描かれる。
また、ここが登場人物との前提知識がなければ読み解くのに苦労するのだ。
この辺はパンフレットにかなり解説してくれてるので先に買って予習しておくのもありだと思う。
そしてここが個人的に何を描きたいかわからなかった。権力闘争がオッペンハイマー自身とストローズのやり取りがバチバチで半沢直樹よろしくならまだいいが、何もエンターテイメントともなく自責の念を少し抱えながら暗い感じで戦っていく。
原爆開発段階からストローズは色々トラップをしかけている。聴聞委員会を開きそれらを提示しつつ、ヤラセありきでオッペンハイマーを追い詰めて、
公職から追放する。
この辺が心理描写が少なく第三者からの発言ばかりなのだ。ここでオッペンハイマーの心理的苦悩などが派手にあればだが…(描いてることは、描いてるのだが、この人が、流されがちだからなのか?)現実としてはこんな感じだったのか、アメリカ人に対してソ連のスパイではなかったことを伝えたかったのか。彼の功績を称える映画でありたかったのか。
「原爆の父」と呼ばれようとも、1人の人間として描きたかったのか。
2個目は描写のしての味付けだ、やっぱり「インセプション」「インターステラー」「TENET」など画にこだわってきた監督なので今回もそういう描写に期待していた。だが自分的には不完全燃焼。
原爆のテストシーンは確かにすごかった、爆発の疑似体験、監督としてはここの実験の結果僅かだが地球全体を破壊する可能性があったのだがそれでもボタンを押したということを体験して欲しかったそう。
それはわかるのだが、また余計な演出としてモノクロのシーン、これが非常に物語をわかりにくくするトリックとなっている。普通はモノクロにするのは過去の描写だ。それが最初は逆でモノクロが現在の描写になっているかと思う。しかし違う、終盤現在に追いついても、モノクロのシーンが出てくるのだ。ここで初めて気づく、ストローズ視点からの描写シーンがモノクロなのだ。(間違ってたらごめんなさい、あくまで私はそう捉えました)
この演出も、わかりやすくするならいいが、よりわかりにくくなってるので必要ないと思っていた。
ネガティブなものが多いが、最後に良かった点としては音、音楽の使い方である。
以前から「インターステラー」などでも「無音」で音の強弱がしっかり着いていたが今回は画が淡々と描かれてる分音による演出が、素晴らしく思えた。
ただ、ストーリーとしては日本人としてはこの映画は手放しに称賛しにくいものであると思う。