劇場公開日 2024年3月29日

「科学者が人間であること」オッペンハイマー バタピーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5科学者が人間であること

2024年4月7日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

クリストファーノーラン作品は人の醜い部分が忠実に描かれていて辛い。
時間スケール、空間スケール、そして人間の感情の尺度が加わる。一回の鑑賞では処理しきれない情報量だったと感じた。

ちっぽけな人間が、自らのエゴと欲求によって周りの環境や人々を壊していく。
現在の環境問題などにも通ずる構図だと感じた。
しかしその動機は決して100%否定できるものではない。
オッペンハイマーが暴走してしまったことは、彼のエゴによる彼の過ちかもしれない。
でも、彼が作らなくても誰かがその後作っていただろう。
そう考えると、一番初めに作った人が悪いのだろうか?
極論を言えば、戦争をしていた人類が悪い。それの開発を急がせた社会が悪い。
でも意見を言えない一般市民は一方的な被害者だ。
誰が悪いのか。
開発した科学者も、投下を決定した大統領も、実際に投下したパイロットや乗組員も、エゴと苦しみを抱えながら、日本に新たな悲しみを生み出した。
結局、誰が悪いのか。誰に怒りの矛先を向ければ良いのかという考え方自体、間違いなのかもしれない。

映画としての完成度、映像・音響・台本全てにおいて怖いほど完璧であった本作。
我々日本人は何をすべきなのか。
おそらく本作の制作、公開に反対することではないだろう。
よく見てみると、この映画は、過去の出来事から様々な事を教えてくれる。
これは無責任な考え方だろうか。
しかしそれを胸に、理想の社会を目指すしかないという事ではないだろうか。

最後まで原子爆弾の開発責任について“We”という主語を用いたオッペンハイマー。
ちっぽけな人だなと率直に感じた。
しかし、ちっぽけな原子を分裂させて生み出される膨大なエネルギーは世界を滅ぼす事ができる。

科学の軍事利用は今や珍しいことではない。
人間個人の倫理観というのはおそらく1940年代からあまり変わっていないだろう。
その中で、社会が変わっていくためには、「科学者が人間であること。」を意識的に実行することが必要なのではないだろうか。
人としての共感性とモラルを持って、サイエンスをする事が大事なのではないか。
そう簡単なことではないかもしれないが。
それを目指して行きたい。

No. 1396 IMAX Laser

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バタピー