劇場公開日 2024年3月29日

「世界が変わる過程」オッペンハイマー neo.the.one.1999さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0世界が変わる過程

2024年4月3日
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天才科学者の脳内イメージが鮮明に残酷に描かれていて思わず見惚れる。理論上の怪物を実現させるまでの情熱や熱量が凄まじく、小さな障害や抵抗を押し潰し周りを巻き込みながら、機関車のように前へ突き進む様は圧巻だった。

ただ、そこに道徳は感じられなかった。あるのは知的好奇心と敵を出し抜く意欲のみ。まさに勝者の正義が怪物を完成まで導いた。

この作品のクライマックス・実験の成功で文字通り世界は変わり、運命も緩やかに下り坂を、やがて加速しながら落ちていく。実現に夢中だった怪物がいる世界を、敵も味方も区別なく食い尽くす怪物が世界に出現した過程を見せてもらった。敵を出し抜くため産んだそれは、生みの親やその大事な人だけを許してはくれないだろう。

日本人でこのテーマに向き合うには覚悟がいる。
被爆地と縁のない生まれの自分でさえ、夜空に炸裂したその光と熱は、美しいと思う後ろめたさより前に、言葉にしにくい恐怖や悲しさが勝った。

大震災がテーマの映画に否定の声が上がる。まだ早いと。関係者に悪影響だと。
では勝者の目線で作ったこの作品はどうか。生存者がまだご存命で、そのご家族やご遺族には避けたいテーマであろう。評価は分かれるしい正解も見出せない。歴史と現代の世界の在り方を考える切っ掛けだけが私に残った。

neo.the.one.1999
sow_miyaさんのコメント
2024年4月6日

抑制の効いた適切なレビュー、感動しました。また他作品のレビューも楽しみにしております。

sow_miya