劇場公開日 2023年10月14日

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「「閉鎖状況下のワンショット・ミステリ」にあまり期待しすぎると、肩すかしを食らうかも。」メドゥーサ デラックス じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「閉鎖状況下のワンショット・ミステリ」にあまり期待しすぎると、肩すかしを食らうかも。

2023年10月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

踊れるデブ三羽烏に乾杯!! こいつらキレッキレじゃねえか。
って、なんだよ、あのエンディング??(ボリウッドパロ?)
というか、そもそもなんなんだこの話(笑)。
なんか、軽く作り手にバカにされてるような……。
予想を裏切るのは良いにしても、
いろいろと裏切りすぎだろう。

個人的には「クローズド・サークル」内で起きた殺人事件の真相をワンショットで追っていく「本格ミステリ」テイストのバックヤードものだと思い込んで視聴したので、大いにはぐらかされた印象。
まずもって、ぜんぜんミステリじゃないし(笑)。
謎解きも犯人当てもへったくれも、有って無きがごとしだし、
重要な登場人物や証言が後から後から「後出し」で出て来るし、
結局、最初から証言者たちが語っていた通りの真相が、なんとなく確認されるだけだし。
あと、毛髪ごと頭皮をはがれた被害者といえば、誰しもがハーシェル・ゴードン・ルイスの『悪魔のかつら屋』を想起するかと思うが、ゴアシーンもなければ既存作へのオマージュもないし、最終的には「頭皮狩りを行ったことについての、気の利いた意外な動機」も出てこなくてがっかり。

全編ワンショットというのも、若干誇張がある(間違いなく何カ所かで切れている)。
それに、ヒッチコックの『ロープ』やベス・デ・アラウージョの『ソフト/クワイエット』のように、ねちねち作り込んだ脚本で「ワンショット」ならではの仕掛けを弄してくるタイプの映画かと思いきや、どっちかというとノリとパワーで押し切るタイプのクライム・サスペンスで、個人的にはちょっと拍子抜け。
そもそも、全編ワンショットが「効果的」に用いられているかというと、観ていてぜんぜんそんな気がしないのが辛いところだ。
単純にお話の展開がわかりにくくなっているだけだし、無理やりワンショットを継続するために自然なナラティヴがあちこちで歪められていて、明らかに変な展開を余儀なくされている。
ラスト近くに開催されるアレも、マジでその日のうちにやってるのか?? 少なくともだいぶ時間が飛んでるんじゃないかと思ったんだけど(もしかして1年後?)。あそこは、ワンショットにこだわった結果として、作中の時間経過がよくわからなくなったケースだといえる。

それ以外にも、いろいろと納得のいかない描写は多い。
あんだけ言われてたのに●●●休憩に出かける底抜けにバカなモデルとか、
賄賂疑惑をさくっと認めちゃったうえに、その話がなし崩しで放置される流れとか、
普通に警察が来てる殺人事件の案件なのに、建物内には官憲がまったくいないとか、
出だしから●●が怪しいことにルネは気づいてるはずなのになんにもしないとか。
終盤で男たちの抱えている「秘密」はさすがに陳腐だと思うし、
ここでドナルド・トランプ出してきて何が面白いのかとも思うし、
事件の真相の呈示の仕方(というか「作法」)がなってないし。

で、あのエンディングなわけだ。
むしろこっちがやりたかっただけなのでは??(笑)
確かに面白いっちゃあ面白いけど、
今までの話を全部台無しにしかねないインパクト。

一方、奇矯なキャラクターどうしがいがみ合ったり、理解し合ったりを繰り返す、クエンティン・タランティーノ的な群像クライム・フィクションとしてとらえれば、そこそこ楽しい映画ではある。
特に、口が汚いばかりか手まですぐに出てしまう直情的な過激派だけど、本来的には高潔な人物である美容師クリーヴのキャラクターは魅力的だ(近くにいると困るが映画で観ているぶんには共感できるタイプw)。
ゴスペル隊を侍らせ、神の福音を説いてまわる美容師ディヴァインは、まさに南部福音派のステロタイプで、北部出身者からはいちばん気味悪がられるタイプといえる。
ゲイの面々はあまりに類型的な描写で、人によっては不満を抱くかもしれないが、まあふつうに美容界にいそうな感じで違和感はなかった。
美容師軍団が押しの強いキャラぞろいだったのに対して、モデル連中のキャラが薄目だったのは少しバランスを逸していたかもしれない。

まずは、「メドゥーサ デラックス」というタイトルの素晴らしさ。
(女の髪にまつわるサスペンスでこのタイトルは本当に絶妙)
この複雑なストーリーを、なんと9日間で撮り上げてしまった手腕。
(この監督さん、実務者としてめちゃくちゃ優秀なのでは?)
広いバックヤードを登場人物をすげ変えながらうろうろする楽しさ。
(なんの感覚に近いかというと、徘徊系ARPGに近いのな)

ミステリとしてはいろいろがっかりしたが、ラストのアレも含めて相応に楽しめはしました。
結局のところ「何をやりたかった映画なのか」の焦点がイマイチ結びにくい映画なんだよね。ギミックだけが際立ってて、描きたかったことがボヤけてるっていうか。

じゃい