「野心の行き着く先」ナポレオン sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
野心の行き着く先
歴史を振り返ると、これはもう天に導かれたとしか考えられないような数奇な運命を辿った人物がいかに多いことか。
ナポレオン・ボナパルトもそんな運命に翻弄された人物の一人だ。
「愚策とは、戦いにおいて最も臆病な策である」とはナポレオンの名言だが、どちらかといえばこの映画では彼はとても神経質で臆病な人間として描かれている。
彼は決して屈強な戦士ではない。
だからこそ彼はとても忍耐強く慎重に戦略を立てる。
優れた戦略家であり、そしてとても野心的だったナポレオン。
武勲を挙げ、クーデターを起こし、ついにはフランスの皇帝の座にまで上り詰めた男。
この映画では彼の功績よりも、彼自身の人間性にとてもフォーカスが当てられていると感じた。
特に彼の持つ幼児性に興味をそそられた。
愛妻ジョゼフィーヌが隠れて浮気をしていることを知った時、彼は任務を放棄して彼女のもとに駆けつける。
そして許しを請う彼女に対して、「私がいなければお前はただの女だ。私のことが世界の何よりも大切であると証明しろ」と迫る。
しかしジョゼフィーヌがいなければ生きていけないのはナポレオンの方だ。
ナポレオンは彼女に妻としてだけでなく、母としての役割も求めているようだ。
逆にジョゼフィーヌに「私がいなければあなたはただの男だ」と丸め込まれてしまうナポレオンの姿が何だか哀れだ。
繊細で嫉妬深く、そして野心を捨てられなかった男。
ジョゼフィーヌが自分の子を産めないことを知った彼は、最終的に国のためと称して彼女に離縁を突きつける。
彼が彼女を心から愛していたことに嘘はないだろう。
しかし彼は最終的に野心を選んだ。
国家への忠誠を超えた野心はやがて身を滅ぼす。
これまでは戦略家として数々の成功を収めてきた彼だが、冬のロシア遠征でついに大敗を喫する。
さらっと描かれているが、46万人もの戦死者を出したナポレオンの作戦は愚策にも程がある。
この大敗により彼はエルバ島へ送られる。
数々の名言を残したナポレオンだが、この映画の中では彼の英雄的な姿はほとんど見られない。
肖像画に描かれるような凛々しく、悠然としたヒーローの面影はない。
むしろ野心によって身を滅ぼした愚かな男の印象が強い。
エルバ島から脱出し、かつての名声を取り戻そうとするナポレオンだが、先にはより孤独で惨めな人生が待っているだけだった。
負け戦であるワーテルローの戦いがクライマックスとしてダイナミックに描写されているのも印象的だった。
最後はセントヘレナに流され、孤独な老後を送る。
最期に病気により先立ったジョゼフィーヌのもとに迎え入れられるのが、彼にとっての救いなのかもしれない。
これはナポレオンとジョゼフィーヌの物語でもあり、共依存とも取れるような二人の奇妙な関係がとても印象的だった。