「ナポレオンという人物」ナポレオン たまさんの映画レビュー(感想・評価)
ナポレオンという人物
映画を観て、Rスコットはそもそもヴィジュアル系の監督でもあったのだ、と認識をあらたにした。
彼の名を一躍有名にしたのは、初期作デュエリスト決闘者。
カンヌで新人賞を受賞しその後エイリアン、ブレードランナー、など世界でも名を馳せる作品を撮り続ける。
もともとは広告メディアCF畑出身。デビッドフィンチャーも確かそうだ。
ブラックレイン、テルマ&ルイーズ、グラディエーター、などなど数々の作品を創り続けてきた。作品は万人受けするものもあれば、賛否を巻き起こすものも多く。低迷する時代もあれ、御歳86歳。映像作家としての地位はゆるぎない。
今作もまた賛否両論。
ナポレオン、世界史でも言及される、多くの人は一度は耳にする有名人。
しかし、フランス革命後に世に出て皇帝にまでのぼりつめた人物、程度にしか認識はなかった。
今作、史実をベースにしながらのフィクション部分も多いときく。
マリーアントワネットはギロチンで処刑される前は、髪の毛を刈られていた。エジプト遠征時ピラミッドに大砲は打ち込んでいない、などなど…
リドリースコットは、はなから気にはしていない。
ヴィジュアル派だったと特に感じたのは、絵画的な画面構成。ナポレオンやその戦いは多くの絵画が残されているが、映像はまさにその画の再現を観ているよう。
圧倒的物量と、人間の数、10台を越えるカメラを使い撮影したといわれる戦闘シーン。VFXを駆使しつつ描かれる17世紀、18世紀の戦場。馬が駆け抜け、銃、剣、大砲の音が鳴り響く。トゥーロン包囲戦、アウステルリッツ攻防、ロシア遠征、ワーテルローの戦い…圧倒的なスケールだ。御大スコットならではの迫力。今、ここまで壮大なスケールでの戦争を描ける監督は少ない。
人物描写においては、ナポレオンを偉人として描こうとはしておらず。のちに離婚することになる妻ジョゼフィーヌとの愛憎半ばする関係にも光を当て、戦争に明け暮れた英雄もまた、人間そのものでもあった、と描写する。
演じるのはホアキンフェニックス、ジョゼフィーヌはヴァネッサカービー両人共に名演をみせる。
彼、彼女らは、決して幸福な人生を歩んだとは思えない。
ジョゼフィーヌにしても、奔放な人生を謳歌したようにみえて物語からは哀しさ、切なさが滲み出る。
今作、2時間40分弱と十分長いが、4時間ほどもあるディレクターズカット版もあるときく。
あえていうなら、ナポレオンの闘争の半生をダイジェストのように見せている感があるところか。
戦場シーンもダイナミックながら、次の闘い、また次の闘い…とスピーディに流れていく。
人物描写にしても、少し深みは甘いかな…
ナポレオンの半生ともなると、2時間半では幾分駆け足気味になってしまうか…
しかしながら、私は今作、肯定する。
Sキューブリックも、ナポレオンを映像化したいと思いながらできなかった。
86歳リドリースコットが映像化した。敬意を表する。
今、観るべき映画の一本ではないだろうか。
今作もAppleが出資している。時代を感じる…