「このタッグだからこそ描き得たナポレオンの特異な内面」ナポレオン 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
このタッグだからこそ描き得たナポレオンの特異な内面
リドリー・スコットとホアキン・フェニックスが組むと聞けば、まず思い出されるのは23年前の『グラディエーター』だろうが、あの高揚感みなぎる英雄劇と比較すると、今回の新作は全くテイストが異なる。それもそのはず、本作はナポレオンの伝記映画でありつつも、その生涯や歴史的事件を狭苦しく詰め込むのではなく、むしろ彼の内面こそを浮き彫りにしようとする試みだからだ。とりわけ生涯にわたって彼の心に棲み続けた妻ジョゼフィーヌとの関係性は興味深いもの。外では冷静沈着にフランスの大軍を率いて大きな戦果を上げながらも、内では愛や嫉妬や怒りや焦燥がない混ぜになった狂おしい感情に溺れるナポレオン像をホアキンが底知れぬ魅力で怪演する。また度々登場する歴史的戦いをいかに描くかは御大リドリーの腕の見せどころ。序盤のトゥーロンからワーテルローに至るまで、絵画的な迫力みなぎる筆致と構図、時折あっと言わせる大胆な趣向に魅せられた。
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