劇場公開日 2023年8月2日

「そもそも日本でも台湾でもこういうこと(本文参照)が想定されていない」僕と幽霊が家族になった件 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0そもそも日本でも台湾でもこういうこと(本文参照)が想定されていない

2023年8月6日
PCから投稿

今年267本目(合計918本目/今月(2023年8月度)6本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))。

シネマートではほぼ満員で、コメディタッチの部分があることから、アニメ映画をほぼ放映しない(韓国・中国もの除く)シネマートで笑い声がどんどん聞こえてくる映画も珍しいかな…というところで、本件もタイトルからして何かネタっぽい部分もありますが、要は「瑕疵ある婚姻」というのがテーマになっています。

 ※ 後半はかなりアクション性が強くなります。前半はコメディ、後半はアクションといったところです。なお、字幕も一部不足している部分はありますが、漢字文化圏なのでかなり補えます。

 そりゃ、普通に見る分にはコメディものであり大爆笑なのでしょうけど、日本・韓国・台湾は民法の法体系がそっくりであり、法律系資格持ちは何がなんだかわからず、何を述べてるんだ??というところが多々あるのがつらいところです(なお、以下に述べる点は日本のものですが、同趣旨規定は韓国・台湾にもあることは確認済み)。

 ちょっと想定範囲を超えるネタを出してくる上に、この点(論点となる議論)を厳密につつくと恐ろしいことができてしまう点もあり、「それを映画のテーマにするのか…」というのは強く思いました(社会秩序が大崩壊する)。

 まぁ映画の趣旨としては爆笑でもいいのだろうと思うし(実際、コメディ色は強い)、どうとるかは微妙ですが、個人的にはうーむというところです。

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 (減点0.8/詐欺強迫での婚姻取消しの配慮が足りない)

 ※ 以下、日本民法を基準にしますが、細かい差異はあっても韓国・台湾でも同じです。

 婚姻・離婚において、詐欺・強迫(96条)があっても、総則の適用は「受けず」、もっぱら親族相続の条文で処理されます。

  (747条)

 1.詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
 2. 前項の規定による取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後3箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。

 つまり、詐欺強迫がある場合の取消しは、排斥期間という概念がなく、「詐欺を発見し、強迫から免れたとき」から3か月有効なのです。したがって、何十年後にもなって詐欺強迫による取消請求(家裁ですが、調停前置主義になります。人事訴訟法)というのは可能ですが、およそもって想定されていないところです。これは、仮に詐欺強迫があるとしても、70代80代といった状況で突然それを申し立てることが想定されていないという事情のほか、他の制度(代表的なものは、年金制度)との関係で処理に破綻をきたすためです。

 この規定は、旧民法(日本において民法が制定された、最初の民法)から実は存在していており、その趣旨上、身売りなどを想定した条文ではあり、実際にそういうことが行われていた時期は確かに存在します(戦後の混乱期においても)。ただ、だからといってこの規定により実際に申し立てを行うことも、またあまり想定されていないところはあります。

 ※ ただ、数少ないながら、「女性の25歳年齢サバ読み事案」で認められたケースはあります(平成10年代)。

 換言すれば、特に強迫等による婚姻(第三者による詐欺・強迫においても適用あり。特に婚姻者側の親が極端に力関係の差を用いて関与してくるといったケースが実際に存在した)は特に、被害者側の落ち度は低いかないものの、一方で強迫状態から脱出して強迫取消しを主張しても、当事者が80台90台といった要介護認定を受けている段階でそういう申請をするのか?という別の倫理的問題があり(家裁もこういう案件を持ってこられても困る)、かなり微妙なところがあります。

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 ※ 特に「男性側の親が異様なまでに干渉してくる」ケースが圧倒的に多く(さすがに物理的監禁といったケースはあまりない模様。このような場合はそもそも「無効」な扱い)、この場合、「その親が亡くなるまで」強迫状態は続きますが(認知症等の論点除く)、そうすると、一般的に20~30代で子供を産むこと、男性女性の平均寿命が80~90歳程度であることを考えると、55~65歳くらいでやっとそれらの主張ができることになります。

 ※ この点の厄介なのは、特に「第三者強迫」といった本人に落ち度がない(詐欺の場合、本人が見抜けなかった等も考慮されます。この点は総則と同じ)事案だと「しても」、じゃ60歳だ70歳だという状態で婚姻取消しを主張するというのが、余りにも想定されていない類型にすぎる(特に第三者強迫の場合、もう一方の配偶者もある意味被害者のケースすら存在する)一方、特に「脅迫は詐欺よりも強く保護される」という理があり、「どう対応するのか」が無茶苦茶になるのです(もちろん、年金制度他の関係も完全に処理が破綻する)。
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 こういったことがあるので、「詐欺強迫(なお、錯誤において、詐欺強迫が用いられた場合も同様)による婚姻取消し」が想定できるようなストーリーは、どのような趣旨で見たらよいのかが不明になってしまい(日本でも台湾でもおよそ想定されていない。条文だけあるといった状態。もっとも、上述したように、「農村部での身売り」などがあった時代があるのも事実)、「こりゃどう解釈するんだ?」というのが微妙すぎます。

 これらまで考えると、ゲラゲラ笑ってみるような映画では到底なく、どうするとこうなるのか…というところが多々あります。
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 内容的にはこれだけの指摘(親族相続の関係の突っ込みを入れるのは私には珍しい?)なのですが、倫理的(特に家族法は条文だけで無理やりいこうとすると社会秩序が崩壊する)に変な部分があり、それは日本も台湾も文化圏が同じである以上、ほぼ同じ結論に達するはずです。

 そういった「重すぎるテーマ」を扱いつつ、ゲラゲラ笑っているような状況なので(個々の方が笑うことを否定するものではない)、「こりゃどうするんだ??」というかなり違和感を覚えた作品です。

yukispica