「覚悟をもって観なければならない作品」ほかげ あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
覚悟をもって観なければならない作品
反戦映画と言ってしまうのは簡単だけど。戦争に奪われ傷ついた人達の重い暗い物語である。
趣里が演じる女は焼け跡の中の居酒屋の建物で暮らしている。そこに戦災孤児と復員兵がやってきて奇妙な共同生活を始める。ほかげとは、狭く暗いこの居酒屋の壁に映る彼らの傷ついたこころに他ならない。復員兵は戦場の恐怖に怯える。戦災孤児はおそらくは空襲の恐怖に怯え夜な夜なうなされる。そして女は身体を売って生きなければならない運命を嘆き恨む。彼らの想いはほかげのようにゆらゆらと揺れ繰り返し彼ら自身を苛むが彼らは居酒屋の闇に囚われ出ていけない。特に女は。この居酒屋には奥の間があり女の心の闇、そこには戦争に奪われた夫と子への想いが潜む。そこにはもはや火影すら届かない。途方もない暗闇である。
映画の後半は森山未來の演じる復員兵と戦災孤児の旅が描かれる。あらすじを読んだときはなぜ復員兵が二人出てくるのか、前半の居酒屋の復員兵が後半の復員兵と同じであっては何故いけないのか疑問に思っていたが旅の目的が分かることにより理解できた。この復員兵は戦争の被害者であるとともに加害者でもある。
彼はある妄執に囚われている。その意味では、彼は女の住む暗い居酒屋に同じく住んでおり、壁に映る火影を見つめているのである。
私は、もちろん塚本晋也の人となりを知らない。でも恐らくは心やさしい人なのだと思う。この映画では、女にも復員兵たちにも孤児にも、希望の光がみえる瞬間が描かれる。凄まじい情念をもって生きていく女の暮らしにも一瞬ホッとする情景があるし、復員兵にもやろうとしていることを躊躇する場面がある。こういったシーンを置いたことは塚本の本質的な優しさによるものだと思う。でも結局、彼らは暴力や病気などにさらされ、他人を拒否し過酷な宿命に突き進んでいく。
私には、こころ優しい塚本が歯を食いしばってこのドラマをつくっているように思える。戦争の過酷さを描くということはそれだけの覚悟がいることなのである。塚本は表現者としてその責務を果たそうとしているようにみえる。だから観客である我々も受け止めなくてはならない。受け止めたからといって何が出来るかはよく分からないけど。