劇場公開日 2023年11月25日

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「終わらない戦争」ほかげ ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0終わらない戦争

2024年1月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

 薄暗い部屋でひっそりと息をひそめるようにして暮らす女、闇市で食べ物を盗んで暮らす孤児、PTSDに苦しむ復員兵。映画前半は彼らが織りなす疑似家族のドラマとなっている。
 戦争のトラウマを抱える者同士、身を寄せあいながら慎ましく暮らす光景に、戦争の”傷跡”が嫌というほど思い知らされた。
 どこからともなく聞こえてくる大きな物音にパニック障害に陥る復員兵。戦火の悪夢にうなされる孤児。生きる屍のように体を売る女。戦争は終わっても彼等の中ではまだ戦争は続いているのだ…ということが実感される。

 物語は女の視点を軸に展開されていくが、後半から孤児の視点に切り替わり、カメラも薄暗い部屋から屋外に出ていくようになる。重苦しいトーンから解放されて、ここからは孤児とテキ家の男の旅を描くロードムービーのようになっていく。
 ここでは何と言ってもテキ屋の謎めいたキャラクターが出色である。彼もまた戦争の傷を抱えて生きる孤独な男で、その顛末には原一男監督のドキュメンタリー「ゆきゆきて、神軍」が連想された。

 製作、監督、脚本、撮影、編集は塚本晋也。
 本作は「野火」、「斬、」に続く戦争三部作の最終章ということである。「斬、」は江戸時代末期を舞台にしているため若干趣を異にするが、戦時下を描いた「野火」と戦後を描いた本作は姉妹作のように並べて観ることが出来る。いずれも反戦メッセージが強く押し出されている。

 印象に残ったシーンは幾つかある。
 例えば、テキ屋の最後の”選択”と、その後に続く孤児の自律には、平和への祈りとかすかな希望が感じられた。
 また、女が切り盛りする居酒屋は一種異様な雰囲気に包み込まれており、まるでホラー映画のような禍々しさで切り取られている。とりわけタイトルシーンにおけるヒモ男と女のスリリングなやり取りは出色の出来で、一気に映画の世界に引き込まれた。

 また、塚本作品の特徴と言えば過激なバイオレンスシーンである。復員兵がPTSDでパニック障害に陥るシーン、テキ屋の男の復讐を描く緊迫感溢れるシーンに目が離せなかった。

 俳優の肉体描写も如何にも”塚本印”という気がした。女を演じた趣里のふくらはぎに対するフェティシズム溢れるカット、テキ屋の男を演じた森山未來の鍛え抜かれた裸体を克明に記したカット等にそれを強く感じる。

 とにかく本作における趣里の存在感は圧倒的で、同時期に放映されている朝ドラのイメージとは真逆で驚かされてしまった。森山未來はもちろん、孤児を演じた子役の澄んだ眼差し、復員兵を演じた俳優の説得力のある造形も素晴らしかった。

ありの